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《宇宙戦艦x艦橋xコメディ》ブリッジ・オブ・カオス〜銀河を救ったのは、たぶん私情と職業病〜  作者: ざつ


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第6話「同盟艦『エクセレント』より愛を込めて」

 通信が入ったのは、昼食直後の眠い時間帯だった。


「同盟艦からです」マリアがヘッドセットを押さえた。「第二艦隊旗艦『エクセレント』、ドレイク・フォルスター大佐から艦長への通信要請です」


「フォルスター大佐」副艦長エレナが少し眉を上げた。「士官学校首席卒業、第二艦隊で最年少大佐の——」


「知ってる知ってる」アランが手を振った。「繋いで」


 モニターに男の顔が映った。


 整った顔立ち、完璧に整えられた金髪、勲章が三列並んだ軍服。アランより10歳は若いはずだが、その顔には「私は優秀です」という確信が全面に滲み出ていた。階級は大佐。アランの中佐より一つ上だ。


「スターフィールド中佐」フォルスター大佐は口元だけで笑った。「お会いできて光栄です。銀河英雄スターフィールド提督とは、私も士官学校時代に一度だけお目にかかりまして。本当に偉大な方でした」


「ああ、親父ですか。まあ——」


「提督のご子息がこの戦域にいらっしゃると聞いた時は、艦隊全体が沸きましてね。あの方の血を引く方が旗艦を、と。これほど心強いことはないと申しておりました」フォルスターは続けた。「保留音による通信妨害、ステルス機動による無力化——どれも型破りな戦術でしたが、なるほど、提督譲りの発想力とはこういうものかと膝を打ちました」


「いや、あれはそういうんじゃなくて——」


「ご謙遜を」フォルスターが遮った。「提督もよくそうおっしゃっていたと聞きます。そういうところまで似ていらっしゃる」アランが何か言う前に、フォルスターはにこやかに続けた。「つきましては次の作戦、ぜひ旗艦の伝説にあやかりたく。提督のご子息が前線に立ってくださるだけで、艦隊の士気が全く違いますので」


「……前線、ですか」


「旗艦の象徴的な価値は計り知れません。中佐のご活躍——いえ、提督のご威光に、全艦隊が期待しております」


 通信が切れた。


 ブリッジに沈黙が落ちた。


「……一回もアラン本人のこと褒めませんでしたね」トビーが言った。


「褒めてたじゃないですか」シドが言った。「お父さんを」


「感じ悪いな」バルドが腕を組んで言った。


「軍人として問題のない通信でした」オリヴィアが書類から目を上げずに言った。


「カーティス少佐も感じたでしょう、さすがに」トビーが続けた。


「感じましたが、それを口にするのは軍規上——」


「感じたんじゃないですか」エレナが静かに言った。


 オリヴィアは書類に戻った。


 アランはヘラヘラ笑ったまま、なんとなく天井を見ていた。その笑顔が、いつもより少しだけ疲れて見えた。


 翌朝の作戦会議から戻ったアランは、げっそりした顔でブリッジに現れた。


「どうでしたか」エレナが振り返らずに聞いた。


「……長かった」


「内容は」


「フォルスター大佐の武勲の話が最初の40分で」


「作戦会議では」


「残り20分で決まりました」アランは艦長席に崩れるように座った。「次の宙域への進軍ルートなんですが、フォルスター大佐の案が、なんか、こう——」


「合理的ではなかった?」


「合理的なんだけど、なんか俺たちに一番危ない場所を割り当ててくるというか」


 エレナがようやく振り返った。


「旗艦を囮にする陣形ですね」


「そう!そういうこと!」アランが身を乗り出した。「俺もそう思ったんだけど、言葉がうまくて、なんか気づいたらサインしてた」


 エレナは胃薬を取り出した。今日は最初から飲んだ。


 作戦概要がモニターに表示された。エレナが数秒見て、眉間を押さえた。クロエがデータを解析し始めた。バルドが「俺たちが一番前ってことか」と目を輝かせ、シドが「エンジンが——」と言いかけてバルドに睨まれて黙った。


「フォルスター大佐の案では」クロエが淡々と言った。「旗艦が敵の注意を引きつけている間に第二艦隊が側面から回り込む陣形です。旗艦の生存確率は現状のパラメータで41%です」


「41」アランが復唱した。「41%」


「誤差はプラスマイナス3%です」


「ありがとうクロエさん、もういいです」


 作戦開始は翌日の夕刻だった。


 両艦隊合わせて60隻以上が展開する大規模な作戦だった。予定通り、『アルテミス』率いる第三艦隊30隻が前方に出た。敵艦隊がこちらに向かってくる。


「敵艦隊、50隻以上!正面から来ます!」トビーが叫ぶ。


「第二艦隊は」エレナが聞いた。


「側面に展開中——あれ」トビーが首を傾けた。「止まってます」


「止まってる?」


「『エクセレント』から通信です」マリアが困惑した顔で言った。「繋ぎますか」


「繋いで」


 モニターにフォルスターの顔が映った。相変わらず完璧な笑顔だった。


「スターフィールド中佐、敵の陣形を見るに、現在の旗艦の位置では——」


「大佐」アランが遮った。珍しく、笑っていなかった。「側面展開はどうなってますか」


「それについてなんですが、敵の数が想定より多く、慎重に——」


「50隻、想定の範囲内です」エレナが言った。


「副艦長、これは大佐と艦長の——」


「敵艦隊、加速してきました!」トビーが叫ぶ。「距離2万!」


 アランはモニターのフォルスターを見た。フォルスターは何か言いかけて、口を閉じた。


 アランは「あ、すみません、電波が悪くて」と言って、モニターを切った。


 ブリッジが静まり返った。


「電波は悪くないですよね」トビーが小声で言った。


「悪くなかったですね」マリアが小声で答えた。


 アランは気にせず前を向いた。


「レオン」


「っす」


「敵の先頭艦の真横に出られる?」


「余裕っす」


「バルド」


「やっと撃てますか」バルドが立ち上がった。


「真横から主砲で先頭艦を仕留めたら、後続が崩れると思う?」


「崩れます」バルドが即答した。「先頭を失った編隊は統制が——」


「じゃあやって。シド、出力は」


 シドは2秒間、何かを葛藤した。


「……80%まで出します」


「珍しいな」バルドが言った。


「旗艦の生存確率41%よりエンジンへの負荷のほうがまだマシです」


 『アルテミス』が動いた。


 レオンが操舵桿を引いた瞬間、艦が急加速した。全員がシートに押しつけられる。オリヴィアが書類を抱えたまま背もたれに沈んだ。ゴンザレスだけがモップを持ったまま微動だにしなかった。


 敵の先頭艦の真横、死角に滑り込む。


「撃ちます」バルドが言った。


 主砲が唸った。


 先頭艦の艦橋が、静かに光った。


 後続の敵艦隊50隻が崩れた。陣形を失った艦が散開し、互いの射線を塞ぎ合う。その混乱の中に、ようやく第二艦隊が側面から突入してきた。


 15分後、敵艦隊は撤退した。


「バルドさん、撃てましたね」トビーが言った。


「ああ」バルドは珍しく満足そうだった。「やっぱり撃てば解決する」


「今回はたまたまです」シドが言った。「エンジンに——」


「微細なひずみだろ」


「わかってるなら労わってください」


 通信パネルに信号が入った。フォルスターからだった。


 マリアがアランを見た。アランは少し考えてから、頷いた。


 モニターにフォルスターの顔が映る。今度は笑っていなかった。


「スターフィールド中佐、先ほどは失礼しました」


「いえいえ、電波が悪くて申し訳なかったです」


 フォルスターは一瞬、何かを言いかけて止めた。


「……旗艦の判断に助けられました」


「お互い様ですよ」アランがヘラヘラ笑った。「大佐の側面突入、きれいに決まったじゃないですか」


「……また一緒に作戦を」


「ぜひ」


 通信が切れた。


 エレナが振り返らずに言った。


「電波、直りましたね」


「直りました」アランが言った。「不思議ですね」


「そうですね」エレナは少し間を置いた。「不思議に」


 それだけだった。エレナはまた書類に向き直った。


 バルドが「今日は満足だ」と言った。シドが「エンジンは無事でした」と言った。トビーはクロエの横顔を見ていた。マリアはトビーをちらりと見て、ヘッドセットを直した。


 ゴンザレスが主砲発射で揺れた際についた足跡を、黙々と磨いていた。


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