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6. まとも

「あのね、実はずっと好きだったんだ涼太くんのこと」

紗織は一言一言を、色味が婀やかな漿果のように話す。

「え」

俺は不明瞭な声を上げた。だってそれは意味がわからないことだからだ。俺はそんな人間じゃない、そんなずっとなんて言ってもらう価値など存在しない、するはずない。ぐるぐると回る自己嫌悪が、間違っているはずもなく、目の前の女神がそれはそれは恐ろしいなにかに見える。邪神、それは人間が勝手に決めたものじゃないのか。ならばこれも勝手な決めつけなんだ。そうだ。

「あ、そうだ、これ」

と紗織は塩分補給の飴をバッグからすんなり取り出す。紗織の手のひらには、小さな包みに入った明るいそれが載っている。

「あげるよ、涼太くん」

優しい笑みも、怪しく見えてしようがない。俺は結局、「はは」なんて情けない声だけ残すこととなった。

 

 名前で呼ぶのも、呼ばせるのも、心を掴むための装置でしかないように思う。きっと実験なんだ、俺で何かの実験をしているんだ。い、言われてみれば、なんか心理学とか齧ってそうな感じあるし、きっと……。心理学……齧っているならそんなことしない……か。心理学は……そういうのじゃないしな〜、たぶん、まぁなんでもいいのかもなぁ〜そんなことさぁ。今大事なのは、いや、どうなってもいいか、俺を大切な人なんていないし、俺が大切な人もいない。そうだ、そうなんだ、そうに決まっている。なら、なんでもいい、や。

 涼太は、お酒をぐいぐい、ぐらぐらと飲む。次第に眼は濁り、本性かいなかはしらない部分が表へと移る前に、瞼が覆い被さり、静かになるのだった。暗がりか、明かりの下か、それでも一人なのは寂しかった。

 寝ている間は、なにも知らずに、考えずにいられる。それはすばらしいんじゃないだろうか。でも、でも、きっとそうじゃない。きっとそうなんかじゃないんじゃないか、そうだろう?なあ、答えてくれよ。愛ってなんだよ。好きってなんだよ。しらない、教えなくていいからさぁ。なぁ。

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