5.忘れられない
「どうして……こちらに?」
俺が言っていたとしても、なぜここに。理由くらいは聞きたいといういうのが建前で、本音は怖くて聞いた。
「君に会いに来たの」
いたいけな少女のように、振る舞う紗織。いじらしいく、可愛く、煩わしい、恋する少女のようだ。
「へぇ……そうですか……それは__えっと__俺、この後バイトでして__」
なにかしないとという強迫感か、頭を搔いた。うまくいって欲しいのだ。
「そうなの」
会話が……変な……。
「大丈夫、すぐよくなるよ」
「……え?………ぁ」
「あれ?どうかしたの?」
紗織の声や顔は心配そうで、「大丈夫?熱中症かなぁ」なんて言っている。
「あっち、あっちで休もう、か」
木の翳で、休んでいる。涼しい。
「これ、飲める?」
紗織は清涼飲料水を手に包んでいた。
「ありがとう」と受け取り、ぐびっぐびっぐびっとペットボトルを斜めにし、喉を動かす。ふうっと息を吐く。
あれは、さっきのは幻覚だったのだろうか。暑さが見せた、幻……。砂上の楼閣……砂なら消してしまえるのに。
「心配だね、ちゃんとご飯とか食べてる?」
涼太くん細そうだもんね、心配……と声は続いている。
細い、ね。
「ほんとに大丈夫?病院……とか……あ、経口補水液とか、あ、冷たい物で冷やそうか」
「いいよ、ありがとう」
自然とありがとうが出る。疲れているのか。
「全然……素直に言うとね。君のこと」
くっきりと色が見てきた視界の中で、彼女と目が合う。
「いや、今じゃないか。ごめん、今度にするよ」
「聞かせてよ」
「……じゃあ……私、涼太くんのこと気になって……いや、……す、すきだから」
頬は赧らんで、瞳は恥ずかしそうに輝いて動く。
「…………ま、まともじゃない……よ、おまえ」
「お、おまえって、わ、名前で呼んでよ!」
「紗織……」と呼べば、うんうんと頷いている。
「好きなんだ。君のこと。涼太くん、好き」
動く脣が、その瞳が焼き付く。笑えば、黒目が細くしか見えなくて、ぷっくりとした脣にもどうにかなりそうだ。すっとした鼻筋に、黒い眉、あぁ美女を讃える言葉があれだけ種々豊富なのも分かるなと、いつしか俺は彼女を形容する言葉を探しているのだった。
「あ…………ぁ…………あ、はい」
口から出た言葉はなんて__。
紗織は俺の返答に、可愛らしい花が咲いたように笑顔になった。それがすごく可愛くて、可愛らしいと思った。




