それでも、光を選ぶ
光が、戦場を塗り替えていた。ノエリアの一撃で押し返された空間が、そのまま形を変えていく。黒い霧が揺れる。エスターが後ろへ滑るように距離を取る。だが、崩れてはいない。むしろ、その目ははっきりとノエリアを捉えていた。
「……そう」
小さく呟く。
「そこまで来たのね」
ノエリアは剣を構えたまま、息を整える。体は軽い。光は安定している。でも、それだけじゃない。胸の奥が静かだ。
(怖い)
その感覚は消えていない。
(でも)
逃げない。
「うん」
短く答える。
「来たよ」
エスターの口元が、わずかに歪む。
「なら」
黒い光が再び膨れ上がる。
「ここで終わらせる」
次の瞬間、踏み込む。今までよりも速い。重い。だが、ノエリアはもう遅れない。剣を出す。ぶつかる。ガン、と強い音が響く。
均衡する。
今度は、完全に対等。
エスターの攻撃が続く。連続で振るわれる。だが、ノエリアはすべてを受け、流し、返す。無理に押さない。繋ぐ。崩さない。
その流れの中で、声が落ちる。
「どうして」
エスターの言葉。
「そこにいられるの?」
ノエリアは一瞬だけ目を揺らす。だが、剣は止めない。
「……怖いよ」
正直に言う。
「何回も折れそうになる」
一撃を受ける。流す。返す。
「でも」
踏み込む。
「終わらせたくない」
エスターの動きが、ほんのわずかに遅れる。
ノエリアは続ける。
「一人じゃないから」
その言葉と同時に、光が強くなる。剣が繋がる。流れが途切れない。
エスターの目が揺れる。
「……甘い」
そう言いながらも、完全には否定しきれていない。
黒い光が強くなる。力を上げる。押し切ろうとする。
だが、ノエリアは崩れない。
「そうかもね」
小さく笑う。
「でも」
一歩踏み込む。
「それでいいんだ」
その瞬間、光がさらに広がる。戦場の空気が震える。黒と光が、真っ向からぶつかる。
エスターの中で、何かが揺れる。
記憶が蘇る。
守れなかった過去。
届かなかった想い。
その先で、自分は“全部壊す”ことを選んだ。
「……それでも」
声が、少しだけ揺れる。
「全部、消えたら」
剣がぶつかる。
「楽になるのに」
ノエリアの動きが止まらない。
「ならないよ」
はっきりと言う。
エスターの目が見開かれる。
ノエリアは続ける。
「なくしたままになるだけ」
その言葉は、優しくも、逃げ場がなかった。
エスターの剣が、わずかに遅れる。
ノエリアが踏み込む。
光が走る。
エスターの防御が崩れる。
「……っ」
後ろへ下がる。
初めて、大きく。
ノエリアは追う。
逃がさない。
「取り戻せるよ」
剣を振る。
光が、真っ直ぐ伸びる。
「まだ」
エスターの目に、迷いが浮かぶ。
「……そんなもの」
否定しようとする。
だが、その声は弱い。
ノエリアは止まらない。
「一緒に」
その言葉に、エスターの動きが止まる。
ほんの一瞬。
だが、決定的な隙。
ノエリアは踏み込む。
剣に、すべての光が集まる。
繋いできたもの。
仲間の想い。
自分の弱さも全部。
そのまま、振り抜く。
「終わらせる!!」
光が弾ける。
ドォォン!!
衝撃が戦場全体に広がる。
黒い光が砕ける。
霧が消えていく。
静寂が落ちる。
エスターの体が、ゆっくりと崩れる。
地面に膝をつく。
息が乱れている。
その目が、ノエリアを見ている。
さっきまでとは違う目で。
「……ああ」
小さく、息を吐く。
「そうか」
ほんのわずかに、笑う。
「まだ、終わってなかったのね」
ノエリアは剣を下ろす。
静かに、近づく。
エスターの前で止まる。
何も言わない。
ただ、手を差し出す。
エスターはそれを見る。
しばらく動かない。
やがて。
ゆっくりと、その手を取る。
黒い霧が、完全に消えていく。
空が、元の色に戻る。
戦場に、静かな光が差し込む。
すべてが終わったあと。
ノエリアは立っていた。
息を整えながら。
でも、その顔は少しだけ笑っていた。




