光の名を持つ者
黒い光が、戦場を覆い尽くす。エスターの力が解放された瞬間、空気の重さが一段階変わった。地面が軋む。立っているだけで押し潰されそうな圧。ノエリアの呼吸が一瞬止まる。
(……重い)
さっきまでと、まるで違う。それでも、足は止まらない。剣を握る。前を見る。
エスターがゆっくりと踏み込む。その一歩だけで距離が消える。ノエリアは反応する。剣を出す。だが、重い。今までの比じゃない衝撃が腕に走る。
ドン、と鈍い音。体が押される。踏ん張る。だが、押し切られる。地面に線が走る。
「ここからよ」
静かな声。そのまま連続で来る。速い。重い。正確。ノエリアは受ける。流す。返す。だが、徐々に押される。形は崩れていない。それでも、“耐える”だけになる。
(……まだ足りない)
分かっている。さっき掴んだ感覚。それだけでは届かない。
エスターの一撃が深く入る。ノエリアの剣が弾かれる。体勢が崩れる。そのまま衝撃。ドォン!!体が吹き飛ぶ。地面に叩きつけられる。
呼吸が抜ける。視界が揺れる。
「それでも立つ?」
エスターの声が遠くで響く。
ノエリアは動けない。体が重い。意識が沈む。
(……まだ)
手が動く。地面を掴む。
(終わらない)
ゆっくりと体を起こす。立ち上がる。足が震える。それでも、立つ。
戦場の音が戻る。仲間の声が聞こえる。
「ノエリア!」
ダニー。
「いける!」
ハイジ。
「前を見ろ」
ジェイド。
「だいじょうぶ」
フィア。
その声が、重なる。
(……繋ぐ)
胸の奥の光が、強く揺れる。今までよりも、はっきりと。暖かく、広がる。
ベルの声が響く。
『ノエリア』
『もう、分かってるでしょ』
ノエリアは目を閉じる。一瞬だけ。
(うん)
開く。
視界が変わる。光が、はっきり見える。自分の中だけじゃない。周りにもある。仲間の中にも。
(繋がってる)
その感覚が、自然に分かる。
ノエリアは剣を握る。踏み出す。
エスターがそれを見る。
「……来なさい」
ノエリアは走る。今までで一番自然な動き。速さじゃない。迷いがない。
踏み込む。振る。光が溢れる。
ガンッ!!
ぶつかる。
今度は、押し負けない。
さらに踏み込む。繋ぐ。止めない。流れが一つになる。
エスターの受けが、明確に崩れる。
「……っ」
初めて、表情が変わる。
ノエリアはそのまま続ける。もう一撃。さらにもう一撃。光が増幅する。
その瞬間。
胸の奥の光が、弾けた。
ドクン。
大きく脈打つ。
光が、溢れる。
ノエリアの体を包み込むように広がる。
ピンクの光が、戦場を照らす。
風が巻き起こる。
エスターが目を見開く。
「……それ」
ノエリアの姿が変わる。光が形を持つ。リボンのように、柔らかく、でも強く。今までの力とは、明らかに違う質。
ベルの声が、はっきりと響く。
『おかえり』
ノエリアは静かに目を開ける。
呼吸が、整っている。
体が軽い。
でも、力は強い。
(これが……)
自然に分かる。
(私の力)
エスターが一歩下がる。
「グランド……」
その言葉が、途中で止まる。
ノエリアは剣を構える。さっきまでとは違う。迷いがない。恐れも、ある。でも、それを含めて立っている。
「行くよ」
その声は、静かだった。
でも、確かだった。
踏み込む。
一瞬で距離が詰まる。
剣が振られる。
光が、真っ直ぐに走る。
ガンッ!!!
衝撃が広がる。
今度は、完全に“押し込む”。
エスターの体が、大きく下がる。
戦場の空気が、変わる。
完全に。
中心が、ノエリアへ移った。




