それでも、前へ
戦いのあと、学園には静かな時間が戻っていた。壊れた地面も、崩れた建物も、少しずつ修復が進んでいる。だが、一番変わったのは空気だった。重さがない。張り詰めていた何かが、確かに消えている。
ノエリアは校舎の屋上に立っていた。あの日と同じ場所。風が、やわらかく吹いている。空は青くて、どこまでも広い。
「……終わったんだ」
小さく呟く。
実感は、まだ完全じゃない。でも、胸の奥は静かだった。
足音が近づく。
「こんなとこにいたのか」
ダニーが手を振りながら来る。少し後ろに、ハイジとジェイドの姿もある。
「探したぞ」
ハイジが腕を組む。
ノエリアは少し笑う。
「ごめん」
ジェイドが隣に立つ。
「無事でよかった」
短い言葉。でも、それだけで十分だった。
ダニーが大きく伸びをする。
「いやー、終わったな」
空を見上げる。
「マジで」
ハイジが笑う。
「お前、最後いいとこ持ってったな」
ノエリアは少しだけ困ったように笑う。
「そんなことないよ」
そのとき、やわらかい声が入る。
「でも、すごかったよぉ」
フィアがゆっくり歩いてくる。相変わらずの調子。でも、その目は少しだけ誇らしげだった。
ノエリアは照れたように視線を逸らす。
「フィアも」
「守ってくれたから」
フィアは少しだけ首をかしげて、笑う。
「うん」
それでいい、という顔だった。
その空気の中に、もう一つの気配が混ざる。
エイミーだった。
その後ろにアンナとウィリアム。
三人とも、戦いのときとは違う、穏やかな表情をしている。
エイミーがまっすぐノエリアを見る。
「話があるの」
ノエリアは頷く。
「はい」
少しだけ間があく。
風が吹く。
エイミーは静かに言う。
「あなたは、もう分かっていると思うけど」
その視線は、ぶれない。
「グランドリミィジュとして認められる」
その言葉は、はっきりしていた。
ノエリアの呼吸が、少しだけ止まる。
でも、驚きすぎることはなかった。
どこかで、分かっていたから。
それでも。
「……私が?」
小さく確認する。
エイミーは頷く。
「ええ」
アンナが笑う。
「文句なしや」
ウィリアムも静かに言う。
「適正値では測れませんでしたが」
少しだけ口元を緩める。
「結果がすべてです」
ノエリアは何も言えない。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
でも。
それと同時に、違う気持ちもある。
ノエリアはゆっくり首を振る。
「……まだ」
エイミーの目がわずかに動く。
ノエリアは続ける。
「まだ、途中だから」
その言葉は、自然に出ていた。
誰かに言わされたものじゃない。
自分で選んだ言葉。
エイミーはそれを聞いて、ほんの少しだけ笑う。
「そう」
それ以上は何も言わない。
認めた、という顔だった。
そのとき、ふわりと光が浮かぶ。
ベルだった。
小さな光が、ノエリアの前に現れる。
『やっとだね』
ノエリアは少し笑う。
「うん」
ベルはくるりと回る。
『これからどうするの?』
ノエリアは少しだけ考える。
空を見る。
仲間を見る。
そして、言う。
「進む」
その言葉は、とてもシンプルだった。
でも、迷いはなかった。
「まだ、やれることあるから」
ベルは満足そうに笑う。
『うん、それでいい』
光が、少しだけ強くなる。
ノエリアの胸の奥も、それに応えるように温かくなる。
ダニーが肩を叩く。
「じゃあさ」
ニヤッと笑う。
「次は負けねえからな」
ハイジも笑う。
「私もな」
ジェイドは静かに言う。
「追いつく」
フィアはいつもの調子で言う。
「楽しみだねぇ」
ノエリアは、その全員を見る。
胸の奥が、また少し強くなる。
「うん」
頷く。
その先にある未来は、まだ分からない。
また迷うかもしれない。
怖くなることも、きっとある。
それでも。
ノエリアは、前を向く。
空は、どこまでも広がっている。
その下で。
一歩、踏み出す。
それだけで、十分だった。




