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適正値ゼロのリミィジュ  作者: 柑橘みかん


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届かせにいく

戦場の中心に、空白が生まれていた。Aクラスが崩され、前線の軸が一瞬で消えたことで、流れが歪む。怪物たちの動きが一斉に前へ寄る。押し潰される寸前の形だった。だが、その空白の中に、もう一つの存在が入る。ノエリアだった。剣を握り、まっすぐに立つ。足は止まっていない。怖さはある。だが、飲まれてはいない。


エスターがその姿を見ている。ほんのわずかに目を細める。


「来るのね」


ノエリアは短く息を吐く。答えは言葉じゃない。踏み込むことで示す。距離を詰める。剣を振る。ピンクの光が、自然に宿る。ガン、と重い音が響く。ぶつかる。今までよりも深く、確かに当たっている。


「……出せるようになったのね」


エスターの声は変わらない。だが、受け方がわずかに変わる。ノエリアは止まらない。もう一歩踏み込む。連続で振る。荒さはある。それでも、芯がある。ガン、ガン、と連続でぶつかる音が戦場に響く。


(まだ足りない)


自分でも分かる。それでも止めない。この距離を、手放さない。


エスターが一歩だけ下がる。ほんのわずか。だが、確実に距離が動く。ノエリアの胸が強く鳴る。(今、押した)その実感が、足を前に出させる。さらに踏み込む。振る。光が伸びる。今までで一番、まっすぐな軌道。


エスターがそれを受ける。ガン、と重い音。だが、今度は押し返される。軸がずれる。ノエリアの体勢が崩れる。次の瞬間、エスターの一撃。速い、ではない。ただ正確。ノエリアの剣の外側を滑るようにして、力が流れ込む。ドン、と衝撃が走る。体が浮く。だが、今度は倒れない。踏みとどまる。足に力を込める。


「……まだ」


小さく言う。自分に言い聞かせるように。エスターの目がわずかに変わる。


「折れないのね」


ノエリアは息を整える。


「折れるよ」


一歩踏み出す。


「でも」


剣を構える。


「終わらない」


その言葉と同時に踏み込む。剣を振る。光が、さっきよりも強く宿る。ガンッ、と音が鳴る。今度は真正面からぶつかる。押し負けない。ほんの一瞬、均衡が生まれる。戦場の空気が揺れる。ハイジが遠くで叫ぶ。


「おい……!」


ダニーも目を見開く。


「いけてる……!」


フィアの結界が、わずかに強くなる。ノエリアの背中を支えるように。


だが、その均衡は長く続かない。エスターが、ほんの少しだけ力を上げる。それだけで、流れが反転する。押し返される。ノエリアの剣が弾かれる。体勢が崩れる。そのまま、次の一撃が来る。避ける。だが、完全には避けきれない。肩を掠める。衝撃が走る。痛みが遅れてくる。


「甘い」


静かな声。だが、確実に差を示す言葉。ノエリアは歯を食いしばる。分かっている。まだ届いていない。でも、さっきより近い。


(あと少し)


その感覚だけが、はっきりとある。立ち直る。呼吸を整える。ベルの声が、胸の奥で静かに響く。


『焦らないで』


ノエリアは頷く。


(うん)


視線を上げる。エスターを見る。


「もう一回」


その声は落ち着いていた。エスターはほんのわずかに笑う。


「いいわ」


その瞬間、空気が再び張り詰める。今度はエスターが先に動く。消える。ノエリアは反応する。完全には見えていない。それでも、来る位置が分かる。剣を出す。ガン、と音が鳴る。受ける。完全ではないが、止める。衝撃が腕に走る。それでも崩れない。


「……見えてきたわね」


エスターの声が近い。ノエリアはそのまま押し返す。踏み込む。距離を詰める。今度は自分から仕掛ける。剣を振る。光が走る。連続で打ち込む。エスターの動きが、ほんのわずかに“対応”に変わる。


戦場の中心で、流れが変わり始めていた。


だが、それはまだ“届いた”とは言えない距離。あと一歩。決定的に足りないものが、そこに残っている。


エスターがそれを見ている。静かに。


「……あと少し」


小さく呟く。


その言葉は、期待か、断定か。


誰にも分からないまま、二人の剣が再びぶつかる。

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