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適正値ゼロのリミィジュ  作者: 柑橘みかん


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崩れる頂点

ダニーの拳が止まった場所から、戦場の空気がわずかに変わっていた。


一つの決着がついたことで、ほんの一瞬だけ均衡が戻る。


だが、それも長くは続かない。


空気が、再び沈む。


重い。


冷たい。


圧が違う。


エスターが、動いた。


ゆっくりと一歩踏み出すだけで、周囲の怪物の動きが揃う。


まるで、すべてがその意志に従っているかのように。


前線の流れが、一気に押し返される。


ハイジが炎を叩き込む。


だが、怪物は止まらない。


「チッ……!」


さらに踏み込む。


連続で蹴りを叩き込む。


それでも、処理しきれない。


ジェイドが横から斬り込む。


正確に核を断つ。


だが、その間に別の個体が入り込む。


「数が異常だ」


短く言う。


ダニーも立ち上がる。


「まだ来んのかよ……!」


拳を構える。


だが、息が完全には戻っていない。


それでも前に出る。


戦場は、完全に消耗戦へと入っていた。


その中心で。


エイミーが前に立つ。


アンナ、ウィリアムが左右に並ぶ。


三人の空気が変わる。


完全な“戦闘態勢”。


エイミーが低く言う。


「ここで止める」


アンナが笑う。


「やるしかないやろ」


ウィリアムも頷く。


「全力でいきます」


次の瞬間。


三人が同時に動く。


ドン!!


エイミーが正面から踏み込む。


金色の光が走る。


アンナが横から入り、動きを制限する。


ウィリアムが後方から拘束を展開。


完璧な連携。


今までで最も完成された形。


エスターの動きが、初めて止まる。


だが。


それだけだった。


「いい連携ね」


静かな声。


次の瞬間。


黒い光が、圧縮される。


ドォン!!!


衝撃が爆発する。


アンナが弾き飛ばされる。


ウィリアムの拘束が砕ける。


エイミーの剣が弾かれる。


三人が同時に崩される。


「……っ!」


エイミーが踏みとどまる。


だが、距離が空く。


完全に“崩された”。


エスターは一歩も動いていない。


ただ、そこに立っているだけ。


「まだ」


静かに言う。


「届かない」


エイミーの呼吸が乱れる。


それでも、目は逸らさない。


「……まだ終わってない」


その言葉は、強かった。


だが。


次の瞬間。


エスターが動く。


消えた。


エイミーの背後に現れる。


「――!」


振り向く。


間に合わない。


一撃。


ドォン!!


エイミーの体が吹き飛ぶ。


地面を滑る。


アンナが叫ぶ。


「エイミー!」


ウィリアムがすぐに動く。


だが、その動きも読まれている。


次の衝撃。


ドン!!


ウィリアムが膝をつく。


アンナも立て直すが、追いつかない。


完全に、力の差が露呈する。


戦場全体が、それを見ていた。


Aクラス。


最強のはずの存在。


それが、押されている。


ノエリアの胸が強く鳴る。


(……違う)


さっきまでと違う。


これはもう、“押されている”じゃない。


(崩されてる)


その現実が、はっきりと見える。


フィアの結界も、広げきれない。


ダニーも動けるが、前ほどの勢いはない。


ハイジとジェイドも、余裕が消えている。


そして――


エイミーが、立ち上がれない。


その瞬間。


戦場の中心が、完全に空いた。


エスターが、そこに立つ。


誰も止められない位置。


ゆっくりと視線が動く。


ノエリアを捉える。


「……あなた」


静かな声。


「次は、あなた」


その言葉で、すべてが繋がる。


この戦いの中心。


この状況の意味。


ノエリアの足が、動く。


怖い。


でも、止まらない。


剣を握る。


一歩踏み出す。


フィアの声が後ろから響く。


「ノエリアちゃん」


振り返らない。


でも、分かる。


支えてくれている。


ノエリアは前を見る。


エスターを。


「……行く」


その声は、震えていなかった。


戦場の音が、遠くなる。


中心にいるのは、二人だけ。


ノエリアとエスター。


その距離が、ゆっくりと縮まっていく。


いよいよ。


決戦が、始まる。

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