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適正値ゼロのリミィジュ  作者: 柑橘みかん


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侵攻開始

空が黒く染まるのに、時間はかからなかった。森の奥から溢れ出した霧は、もはや波のように押し寄せ、学園の結界を叩きつけるように覆い尽くしていく。

次の瞬間、バキン、と乾いた音が響いた。結界の一部が砕ける。そこから一気に闇が流れ込んだ。


怪物が、前回とは比べ物にならない数で現れる。地面を踏み砕きながら、一直線に学園へ突進してくる。「迎撃開始!」ウィリアムの声が全域に響いた。


同時に、各クラスが動き出す。Cクラスが後方支援に回り、Bクラスが前線を構築、Aクラスが中心に展開する。

だが、それでも足りない。明らかに“数”が違った。ハイジが前線に飛び込む。「まとめて来い!」炎が爆ぜる。蹴り一発で数体を吹き飛ばすが、その隙間を埋めるように次が来る。ジェイドが横に滑り込む。剣が閃く。正確に核を断つ。

無駄がない。だが、その表情はわずかに硬い。

「処理が追いつかない」短く言う。


ダニーもすでに突っ込んでいた。「うおおお!!」拳を叩き込む。一体、二体、三体。だが、息をつく暇がない。背後からも来る。

完全に“押し切る”構成だった。その中心に、ノエリアがいる。剣を握る。胸の奥の光が、静かに揺れている。さっきとは違う。

怖さはある。でも、それに飲まれない。「行く」小さく呟き、踏み出す。怪物へ向かって一直線に。

振る。光が宿る。ガンッ!!一体が弾ける。次。踏み込む。振る。光がついてくる。さっきよりも自然に。連続して倒していく。


ダニーが横で叫ぶ。「ノエリア!」ノエリアは止まらない。

「大丈夫!」その声に迷いはなかった。ハイジが笑う。「いいじゃん!」ジェイドも一瞬だけ頷く。だが、そのときだった。

空気が一段、重くなる。誰もが同時に気づく。「……来る」ジェイドの声が低く落ちる。霧の奥。ゆっくりと、一つの影が前へ出る。


白い髪。黒いコート。エスター。


その存在だけで、戦場の流れが変わる。怪物の動きが揃う。まるで、意志を持ったかのように。エスターはゆっくりと歩く。焦る様子はない。

すべてを見下ろしているような視線。

エイミーがすぐに前へ出る。「ここで止める」その声に、アンナとウィリアムが並ぶ。三人の空気が張り詰める。

だが、エスターは止まらない。歩く。ただ、それだけで距離が縮まる。「遅い」小さく言う。次の瞬間、消える。

エイミーが反応する。剣を振るう。

だが、空を切る。横。すでにそこにいる。

エスターの一撃。ドォン!!アンナが弾き飛ばされる。

ウィリアムが即座にフォローに入るが、それすら読まれている。崩される。

連携が成立しない。「……っ!」エイミーが踏み込む。全力の一撃。だが、止まる。エスターの手で。完全に、受け止められている。

「まだ」静かな声。「足りない」そのまま弾き飛ばす。ドン!!三人が同時に後退する。完全に、押されていた。その様子を、ノエリアは見ている。

(違う)

さっきと同じ。でも、違う。逃げない。剣を握る。踏み出す。

「ノエリア!」フィアの声が後ろから響く。結界が展開される。水色の光が、背中を守る。「行っていいよぉ」ノエリアは頷く。「うん」走る。エスターへ向かって。

一直線に。途中、怪物が割り込む。振る。光が走る。斬る。止まらない。近づく。距離が縮まる。エスターの視線が、動く。ノエリアを捉える

「来たのね」ノエリアは止まらない。「今度は」息を整える。「止まらない」そのまま、踏み込む。剣を振る。光が、はっきりと宿る。ガンッ!!ぶつかる。エスターの腕が、わずかに沈む。ほんの一瞬。だが、確かに。“届いた”。戦場の空気が揺れる。

ハイジが笑う。「やるじゃん!」ダニーも叫ぶ。「いける!」ジェイドの目も鋭くなる。

だが、エスターは冷静だった。「……不安定」一言。それだけで、流れが変わる。次の瞬間、光を押し返される。ノエリアの体勢が崩れる。


だが、倒れない。踏みとどまる。「まだ!」その声は、はっきりしていた。エスターの目が、わずかに細くなる。「そう」その瞬間、周囲の霧が一気に収束する。怪物の動きが変わる。統制される。

完全な“戦場支配”。


「なら」エスターが言う。「見せてあげる」空気が凍る。「絶望を」その言葉と同時に、戦場が一段階上の地獄へと変わろうとしていた。

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