掴みはじめた力
朝の空気は、静かだった。
あの戦いが嘘のように、学園はいつも通りの朝を迎えている。
けれど、その空気の奥には確かに緊張があった。
誰もが分かっている。
“次が来る”と。
訓練場には、すでに数人の姿があった。
ハイジが軽く体を動かしている。
炎が足元で小さく弾ける。
ダニーは拳を握り、何度も踏み込みを繰り返していた。
ジェイドは一人、静かに剣を振っている。
その動きは変わらず無駄がない。
そこに、ノエリアが入ってくる。
足取りは、昨日よりも少しだけ安定していた。
ハイジが気づく。
「お、来たな」
ダニーも振り向く。
「おはよ」
ノエリアは頷く。
「うん」
そのまま、剣を抜く。
迷いは、まだある。
でも、昨日とは違う。
自分の中に“ある”と分かっている。
それだけで、立ち方が変わる。
ジェイドが一歩前に出る。
「やるか」
短く言う。
ノエリアは頷く。
構える。
空気が張り詰める。
踏み込む。
振る。
ガンッ。
受け止められる。
だが、止まらない。
もう一歩。
踏み込む。
剣を重ねる。
その瞬間。
光が宿る。
淡く、でも確かに。
ジェイドの剣とぶつかる。
ガンッ!!
ほんのわずかに、押し込む。
ジェイドの目が動く。
「……出せるな」
ノエリアは息を整える。
(今の……)
さっきよりも、自然だった。
無理に出した感覚じゃない。
もう一度。
踏み込む。
振る。
光がまた宿る。
今度は、少しだけ安定している。
ジェイドがそれを受ける。
「いい」
短く言う。
「そのまま続けろ」
ノエリアは頷く。
そのまま何度も打ち込む。
光が出る。
消える。
出る。
消える。
まだ不安定。
でも、確実に“再現できている”。
ダニーが横で笑う。
「すげえじゃん」
ハイジも腕を組む。
「やっとスタートラインだな」
その言葉に、ノエリアは少しだけ笑う。
そのとき。
訓練場の入口に、影が現れた。
エイミーだった。
その後ろに、アンナとウィリアム。
三人とも、すでに戦闘の顔をしている。
空気が変わる。
エイミーが言う。
「時間がない」
その一言で、全員が止まる。
「次は防げない」
ノエリアの胸がわずかに締まる。
エイミーは続ける。
「全面戦闘になる」
アンナが軽く言う。
「前回は“様子見”や」
その言葉の意味は重い。
ダニーが顔を上げる。
「じゃあ次は……」
ウィリアムが答える。
「殲滅戦です」
その空気が、場を包む。
逃げ場はない。
守るだけでは終わらない。
エイミーが全員を見る。
「あなたたちは」
視線が一人一人に向く。
「前線に出る」
ハイジが笑う。
「望むところだ」
ダニーも拳を握る。
「やるしかねえな」
ジェイドは静かに頷く。
ノエリアは少しだけ息を吸う。
(来る)
でも、もう逃げない。
エイミーの視線が止まる。
ノエリアに。
「あなたは」
少しだけ間を置く。
「中核になる」
ノエリアの心臓が跳ねる。
「まだ未完成」
「でも」
その目は確信している。
「中心は、あなた」
その言葉は、重く、でも真っ直ぐだった。
ノエリアはゆっくり頷く。
「……はい」
そのときだった。
空気が、震える。
全員が同時に外を見る。
遠く。
森の奥。
黒い霧が、今までで一番大きく膨らんでいる。
ゆっくりじゃない。
一気に。
押し寄せる。
ウィリアムがすぐに言う。
「来ます」
エイミーの声が重なる。
「配置へ」
その瞬間。
全員が動いた。
ノエリアも走る。
剣を握る。
胸の奥の光が、静かに揺れる。
ベルの声が響く。
『ノエリア』
「うん」
小さく答える。
今度は、分かっている。
この戦いは。
ただ守るためじゃない。
終わらせるための戦い。
そして。
その中心に、自分がいる。
空が暗くなる。
黒い霧が、学園へ降りてくる。
その中に――
確実に、“あの人”がいる。
ノエリアは足を止めない。
前へ。
ただ、前へ。




