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適正値ゼロのリミィジュ  作者: 柑橘みかん


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降りてくる絶望

空気が、変わった。


それは誰の目にも明らかだった。


戦場に満ちていた熱が、一瞬で冷える。


怪物の唸り声すら、遠くなる。


時間が引き延ばされたような感覚。


ノエリアの背筋に、冷たいものが走る。


(……来る)


次の瞬間だった。


ふわり、と。


黒い霧の上に、白が現れる。


静かに。


ゆっくりと。


エスターが、降りてきた。


その足が地面に触れた瞬間。


ドン、と低い圧が広がる。


見えない衝撃が、空間全体を押し潰す。


ノエリアの呼吸が一瞬止まる。


膝が、ほんのわずかに沈む。


(重い……)


ただ立っているだけで、押される。


それが、エスターだった。


ハイジが舌打ちする。


「チッ……来たか」


炎が揺れる。


ジェイドはすでに剣を構えていた。


一歩も動かない。


ただ、集中している。


ダニーも拳を握る。


だが、さっきまでとは違う。


本能的に分かっている。


“これは別格だ”と。


フィアの結界がわずかに揺れる。


それでも、崩れない。


フィアは一歩も下がらなかった。


ただ、静かに前を見る。


エスターは何も言わない。


ゆっくりと視線を巡らせる。


戦場。


怪物。


リミィジュたち。


そして――


ノエリアで止まる。


「……また会ったわね」


その声は穏やかだった。


まるで日常の延長のように。


ノエリアは剣を握る。


震えは、完全には消えていない。


それでも、目は逸らさない。


「……うん」


小さく答える。


エスターは一歩踏み出す。


それだけで、空気が軋む。


「いい目になった」


ほんのわずかに、口元が動く。


「でも」


その次の瞬間。


消えた。


ノエリアの視界から。


「――っ!」


反応したときには遅い。


目の前に、エスターがいる。


剣が振られる。


速い、ではない。


“無駄がない”。


それだけで、圧倒的だった。


ノエリアは反射で剣を出す。


ガンッ!!


衝撃が腕を貫く。


体が浮く。


そのまま後ろへ飛ばされる。


ドォン!!


地面に叩きつけられる。


息が詰まる。


視界が揺れる。


(……速い、じゃない)


理解する。


(全部、正確すぎる)


エスターはその場から動かない。


ただ、ノエリアを見ている。


「今のは、よく反応した」


ノエリアは歯を食いしばる。


立ち上がる。


足が震える。


でも、立つ。


「……まだ」


声を絞り出す。


「終わってない」


エスターは静かに頷く。


「そうね」


次の瞬間。


再び踏み込む。


ノエリアも動く。


今度は逃げない。


踏み込む。


剣を振る。


ぶつかる。


ガンッ!!


さっきより、ほんの少しだけ押し返す。


エスターの目が、わずかに動く。


だが。


次の瞬間には、崩される。


軸を外される。


体勢が崩れる。


そのまま――


軽く押されるだけで、吹き飛ぶ。


「まだ甘い」


静かな評価だった。


そのとき。


横から炎が割り込む。


ハイジの蹴り。


ドォン!!


エスターの横をかすめる。


だが、当たらない。


エスターはほんの少し位置をずらしただけ。


ジェイドが同時に斬り込む。


鋭い一撃。


しかし。


それも届かない。


剣が止まる。


空中で。


まるで見えない壁があるように。


「連携はいい」


エスターが言う。


「でも」


その瞬間。


黒い光が弾ける。


ドォン!!


三人まとめて吹き飛ばされる。


ハイジが地面を転がる。


ジェイドが膝をつく。


ノエリアは、また立ち上がれない。


完全に、差を見せつけられていた。


その中で。


一人だけ、動かなかった。


フィアだった。


結界を張ったまま、前に出る。


エスターの前に立つ。


その姿は小さい。


でも、揺れていない。


エスターが視線を向ける。


「あなたは」


少しだけ興味を持ったように。


「守るだけの子」


フィアは首をかしげる。


「うん」


そして、少しだけ笑う。


「そうだよぉ」


エスター

「それで満足?」


フィアは少し考える。


数秒。


静かな時間。


そして言う。


「まだわかんない」


その答えに、エスターの目がわずかに細くなる。


フィアは続ける。


「でもねぇ」


結界の光が少し強くなる。


「守りたいって思うのは」


「ほんとだよ」


その瞬間。


水色の光が、ぐっと密度を増す。


結界が広がる。


今までより、明らかに強い。


エスターの動きが、ほんの一瞬だけ止まる。


「……そう」


初めて、わずかに評価が変わる。


ノエリアはそれを見ていた。


地面に手をつきながら。


(フィア……)


守ること。


支えること。


意味があるかどうかじゃなくて。


“やりたいからやる”。


その姿。


胸の奥で、何かが揺れる。


強く。


さっきよりも、はっきりと。


『ノエリア』


ベルの声。


今度は、逃げない。


ノエリアは立ち上がる。


ゆっくりと。


剣を握る。


前を見る。


エスター。


フィア。


戦場。


全部を見て。


小さく、でも確かに言う。


「……もう一回」


その声は、震えていなかった。

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