崩れる均衡
グランドフォール学園、中庭。
戦場はすでに“均衡”を失いかけていた。
ハイジ
「っ……数が多すぎる!」
炎の蹴りが怪物を吹き飛ばす。
だが。
次の瞬間には、また新しい怪物が霧から生まれてくる。
ドン!ドン!ドン!!
地面が揺れる。
ジェイドが低く言う。
ジェイド
「供給源が止まっていない」
視線は一瞬で後方へ向く。
カリン。
その足元から、闇が流れ続けている。
ハイジ
「チッ……!」
さらに蹴りを叩き込む。
だが処理が追いつかない。
徐々に。
確実に。
押され始めていた。
ドォン!!
ダニーが吹き飛ばされる。
地面を転がり、止まる。
キースがゆっくり近づく。
キース
「その程度か」
ダニーは立ち上がる。
足が少し震えている。
ダニー
「……まだだ」
キース
「見てみろよ」
顎で戦場を示す。
ダニーが視線を動かす。
怪物。
押されるCクラス。
防戦一方の戦況。
キース
「守れてねえじゃねえか」
ダニーの拳が強く握られる。
キース
「努力?」
笑う。
「意味あったか?」
ダニーの呼吸が乱れる。
それでも。
前を見る。
ダニー
「……意味ある」
一歩踏み出す。
「今決める」
拳を振るう。
だが。
キースがそれを受け止める。
そして――
叩き返す。
ドン!!
再びダニーが崩れる。
結界がきしむ。
ミシ……ミシ……
フィア
「……っ」
水色の光が揺れる。
怪物が一斉にぶつかる。
ドン!!ドン!!
結界が歪む。
フィアの足が一歩下がる。
カリンが外から覗き込む。
カリン
「ねぇ」
小さく笑う。
「まだやるの?」
フィア
「……うん」
声が少しだけ震えている。
カリン
「なんで?」
フィアは答えない。
ただ。
ノエリアの前に立つ。
結界を維持する。
カリンがつぶやく。
カリン
「壊れちゃうよ」
次の瞬間。
怪物が同時に叩きつける。
ドォン!!
結界に大きなヒビが入る。
エイミーが剣を振るう。
金色の光が走る。
だが。
エスターは動かない。
黒い光がわずかに揺れるだけ。
その一瞬で。
すべての攻撃が弾かれる。
アンナ
「アカン……!」
ウィリアム
「出力差が大きすぎる」
エスター
「まだ」
静かに言う。
「届かない」
その瞬間。
黒い光が広がる。
ドォォン!!!
衝撃波。
エイミーたちが吹き飛ばされる。
地面を滑る。
完全に――
押されていた。
そのすべてを、ノエリアは見ていた。
(……負けてる)
誰も倒れてはいない。
でも。
勝てていない。
押されている。
(このままだと……)
怪物が迫る。
結界が揺れる。
フィアの呼吸が荒い。
ダニーが立ち上がれない。
ハイジとジェイドも余裕がなくなっている。
そして。
Aクラスでさえ――
届いていない。
ノエリアの手が震える。
(私……)
何もできていない。
そのとき。
結界が大きく揺れた。
パキッ――
ヒビが広がる。
フィア
「……っ」
ノエリアが叫ぶ。
ノエリア
「フィア!」
カリンが笑う。
カリン
「終わりだね」
怪物が一斉に振り下ろされる。
その瞬間。
ノエリアの中で、何かが弾けた。
ドクン。
心臓が強く鳴る。
(やだ)
また。
守れないのは。
(もう)
嫌だ。
そのとき。
胸の奥で、光が強く揺れた。
『ノエリア』
ベルの声。
はっきりと。
強く。
『思い出して』
ノエリアの視界が揺れる。
幼い頃の記憶。
笑っていた自分。
迷いのない自分。
守りたいって、真っ直ぐ思っていた自分。
(……あのときの私)
ノエリアの手の震えが止まる。
剣を握る。
(私)
小さく呟く。
「守りたい」
次の瞬間。
ピンクの光が、剣に集まる。
今までとは違う。
強く。
優しく。
そして――
真っ直ぐな光。
結界の中で、その光が広がる。
フィアが目を見開く。
フィア
「ノエリアちゃん……?」
カリンの笑顔が止まる。
カリン
「……え?」
エスターの視線が動く。
ノエリアを捉える。
静かに。
確実に。
エスター
「……それ」
空気が変わる。
戦場の中心が、わずかに移る。
ノエリアの光へ。




