静かに崩れる日常
グランドフォール学園の朝は、いつもと変わらず始まった。
白い石畳の中庭には、やわらかな日差しが差し込んでいる。
噴水の水音が静かに響き、生徒たちはそれぞれの教室へ向かっていた。
ノエリアもその中にいた。
フィアと並んで歩いている。
フィア
「今日は座学だったよねぇ」
ノエリア
「うん、リミィジュの歴史」
少し苦笑する。
「ちょっと苦手かも」
フィアはふわっと笑う。
フィア
「でもねぇ」
「大事なこと、いっぱいあるよぉ」
ノエリアが頷いた、そのときだった。
――空気が変わった。
風が止まる。
噴水の水が、ほんの一瞬だけ揺れた。
ノエリアの胸の奥がざわつく。
(……なに、これ)
遠くで鐘が鳴った。
ゴン……ゴン……ゴン……
いつもの時間ではない。
緊急の鐘。
次の瞬間。
学園全体に声が響いた。
「全生徒、戦闘配置へ移行」
ウィリアムの声だった。
冷静で、無機質な声。
だがその裏に、明確な緊張がある。
「繰り返す。戦闘配置へ移行」
中庭が一気にざわつく。
「え?」
「何が起きた?」
ダニーが走ってくる。
ダニー
「来たぞ!」
ハイジもすでに戦闘態勢に入っていた。
ハイジ
「森側だ」
その瞬間。
――轟音。
ドォォォン!!!
地面が揺れる。
遠く、学園の外周の森。
黒い霧が空へ噴き上がった。
誰かが叫ぶ。
「結界が破られた!」
ノエリアの心臓が大きく跳ねる。
(結界……?)
ジェイドが低く言う。
ジェイド
「来たな」
その目はすでに戦場を見ている。
フィアが少しだけ息を飲む。
フィア
「……ほんとに来ちゃったねぇ」
次の瞬間。
空間が歪んだ。
黒い霧が、中庭の中央に現れる。
渦のように広がる。
そこから――
ゆっくりと、人影が現れた。
カリンだった。
くるくると回りながら着地する。
カリン
「こんにちは」
いつもの軽い声。
だが空気は完全に違う。
その後ろ。
さらに影が現れる。
キース。
オリオン。
そして――
最後に。
ゆっくりと降りてくる影。
白い髪。
黒いコート。
エスター。
中庭の空気が凍りついた。
誰も動けない。
生徒たちの呼吸が止まる。
ノエリアの胸が強く締め付けられる。
(この人……)
前に出たのは、生徒会だった。
エイミーが一歩踏み出す。
その瞬間、空気が変わる。
金色の光が広がる。
アンナがその横に立つ。
ウィリアムはすでに周囲を分析していた。
エイミー
「ここは学園よ」
静かな声。
だが確実に響く。
「これ以上の侵入は許さない」
エスターはその言葉を聞いて、わずかに目を細めた。
エスター
「変わらないのね」
視線がエイミーに向く。
「エイミー」
その名前に、空気がさらに張り詰める。
ダニーが小さく言う。
ダニー
「姉……?」
ノエリアも息を飲む。
エイミーは一歩も引かない。
エイミー
「帰って」
その声には、感情が混じっていた。
エスターは首をわずかに振る。
エスター
「今日は違う」
周囲の闇がゆっくり広がる。
「迎えに来たの」
エイミーの表情が一瞬だけ揺れる。
アンナが小さく言う。
アンナ
「来るで」
その瞬間。
キースが前に出た。
キース
「始めるぞ」
拳を鳴らす。
ダニーの目が変わる。
ダニー
「……お前」
一歩前へ出る。
ハイジが笑う。
ハイジ
「いいね」
炎が足元で弾ける。
ジェイドが剣を抜く。
静かに。
フィアはノエリアの隣に立つ。
フィア
「ノエリアちゃん」
ゆっくり言う。
「離れないでねぇ」
ノエリアは頷く。
剣を握る。
手が少し震えている。
(怖い)
でも。
目の前には仲間がいる。
そして――
逃げない。
そのとき。
エスターの視線が動いた。
ゆっくり。
ノエリアで止まる。
ドクン。
心臓が強く鳴る。
エスター
「あなた」
静かな声。
「やっぱり、ここにいたのね」
ノエリアの足が一瞬止まりそうになる。
でも。
踏み出す。
ノエリア
「……ここは」
剣を握る。
「守る場所だから」
エスターは少しだけ目を細めた。
その表情は――ほんのわずかに柔らかかった。
だが次の瞬間。
闇が爆発する。
ドォン!!!
怪物が一斉に現れた。
地面が割れる。
空気が震える。
ウィリアムの声が響く。
「全クラス、迎撃開始!」
ハイジが飛び出す。
「行くぞ!!」
ダニーも続く。
「うおお!!」
ジェイドはすでに敵の中へ踏み込んでいた。
フィアの結界が広がる。
水色の光が仲間を包む。
ノエリアはその中心で、剣を握りしめる。
胸の奥で光が強く揺れる。
『ノエリア』
ベルの声。
戦いが、始まった。




