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13-5.陽光


「どうやら面白いことを考えていらっしゃいますねぇ?」

「ひぃいいぃいぃいっ!!?!?」

「ひゃぁああぁああっ!?!?!」


 突然あらぬところからの声に惟也と礼羅が揃って悲鳴をあげる。

 俺も振り返ると下から灯台の光りを当てられた笑みが暗闇にぼんやりと浮かんでいた。


「うわ残月!?」


 惟也は案の定倒れていた。礼羅が残月だと気付くと慌てて惟也をゆすって起こしている。


「そう主から怯えられるとこの残月も泣いてしまいそうですよ」


 よよよと袖で隠して泣くふりをしているがいつも通りにんまりと笑っているじゃないか。むしろ俺たちが驚くのを楽しんでるだろ。

 にしても満月までまだ日はあるのに残月がうちに来ることが多いな。と思いながら礼羅を見ると睨み返された。なんでだよ。


「突然なんだ」

「一刻ほど前に先触れは送ったのですがねぇ?」


 はっと振り返り俺の文台を見ると不自然に縛った紙が置いてあった。帰って来た時には既に真っ暗だったから全く気付かなかった。


「……話が込み入った。急ぎか?」


 惟也が畳を用意すると残月は礼を言って座り扇で口元を隠す。


「いやぁ、帰り際に右大臣から問い詰められましてねぇ?」

「そうか」

「そう他人事のようなお顔をなさらないでください」

「この顔は元からだ」


 「また泣いてしまいますよ?」とまた泣くふりをする残月を適当にあしらっていると、やっと起き上がった惟也が慌ててその場から立とうとするのを残月は止めて座るよう促す。惟也にも関係があるらしい。

 礼羅もその場から去ろうと腰を浮かせたら「おそらく貴女も聞いた方がいいかと」と言って引き留めた。


「右大臣の話によると嵐山殿は慈雨の宮の御屋敷に向かったようですねぇ。しかも数日前には少外記の宮がここに訪れたとか」


 相変わらず腹を探るような聞き方だな。


「そうだ。二人は左大臣の所縁と聞くが気にしすぎじゃないか?」

「よく覚えておいでで。初めは私もそう思いましたよ。ですがここに皆さまが宮様がどなたかの後ろ盾になるなんてことを仰るから、私としては内心穏やかでは無いのですがねぇ?」


 残月はどこから聞いていたんだ。残月が扇越しに視線を寄こせば言い出しっぺの礼羅が目を逸らした。


「嵐山の宮が慈雨の宮の大君に心を砕いたと噂になったのですよ。なぜそんなことをなさったのか確認しろと右大臣がうるさ……大層ご心配になられておりました」


 今うるさいと言おうとしただろ。というかもう右大臣の方にまで噂が広がったのか。


「慈雨の宮で、不可解なことがあったという話は知ってるか」

「おや、どうやら込み入った話のようですねぇ……」


 初め慈雨の宮が使いを出したとこから、順を追って話しをすれば残月は眉を潜めていた。


「事情は分かりました。箱のこともあったからでしょうが、陛下が許しを出したことは私も存じませんでしたねぇ。……それにあのお二人はそう無礼な振る舞いをなさる話は聞いたことがございませんしねぇ」

「あの、有明の君。私もこればかりは存じませんでしたが、その、一ノ宮のような御方が少外記になられるような事情があったのでしょうか……?」


 一ノ宮とは陽輝の事だ。確かに正妻にも等しい中宮の長男だった陽輝が東宮ではなく、臣籍降下しているのは不可解だ。妊娠したのが双子なら腹の大きさでもすぐに分かるだろう。もし双子が凶兆だと言われていたとしても、仮の母親をもう一人立て、同じ日に生まれた異母兄妹にすることも出来たはずだ。


「……そうですねぇ。あまり知られておりませんが、当時の帝は東宮ではなく一人の皇子で、内裏ではなく別の宮を建てて暮らしておられたので特段重視されておられなかったのですよ。先の中宮もあの頃は東宮妃や女御でもなく御息所(みやすどころ)と呼ばれていたでしょうからねぇ。

 ということもあり、あのご兄妹はお生まれになって間も無い頃から猶子に出す事が決まっていたのです。一時は当時の大納言の孫ということもあり、伯父君……今の左大臣ですねぇ。その者の子になっていた時期もございましたが……」


 残月が意味ありげにこちらを見る。


「父親が正式に立太子して、俺が参内してから次々と皇子や姫皇女が死んで減ったから引き戻せざるを得なかったのか」


 惟也と礼羅は息をのむ。二人の息が時々揃うのは何なんだ。

 多くの親王、内親王が次々と亡くなったから宮中は原因を探るのも含めて大慌てだったのだろう。とにかく血を絶やさないようにとあの頃は諸王だけでなく源氏になった者の子も何人かはあらゆる手を使って縁付かせたと聞く。


「……貴方様のせいかどうかはともかく……そういった成り行きもあり、二人が双子であることは既に公になっておりますから、一ノ宮が東宮に望まれることはございませんでした。慈雨の宮も同じく、成人して皇子が多くいればまた臣籍に戻すということになったようですよ。その時には既に何人か皇子がお生まれになっておりましたからねぇ」


 一族を絶やさないという意味では保険を残しておく必要がなくなったからだろう。


「本人らは了承していたようですが左大臣はそれにいい顔をしなかったようですねぇ。それで異例ではございますが帝は一ノ宮を参議に加えました。ですが、一ノ宮と先の左大臣が仲違いを起こしたようです。今の左大臣は先の左大臣のご子息ですから、今もその関係は変わらずのようで」


 一ノ宮もとい陽輝を俺は兄と思ったことはないが境遇といい、妙に親近感が湧く。


「おや、もう興味をお持ちになるので?妬きますねぇ」

「やめろ気色悪い」


 礼羅が目を見開いて俺と残月を交互に見ていた。何がおかしい。

 話が終わったのを見計らった惟也が声をかける。


「もう遅いですし、皆さまそろそろおやすみになりませんか?今お食事は出せませんが有明の君も……」


 惟也と残月が期待の眼差しでこちらを見るが、残月ははなから泊まる気だったろ。


「……構わない」


 それでも夜遅くに追い出す訳にはいかないのでそう言うしかない。


「では主様、私もこれでお休みさせていただきます」

「この時間まで悪いな」


 礼羅も三つ指揃えて頭を下げると自分の部屋に行こうとする。


「夜半の君、送りましょう」


 惟也が灯りを持って付いて行った。惟也が俺以外の人間に気を配ることは珍しくないがその状況になんだかもやっとするが見逃しておく。

 それ以上に今日は疲れたのでさっさと寝たい。 


「残月も今日は休め。いつもの部屋なら――」

「その前に、先ほどの後ろ盾についてお話をお聞きしたいのですが」


 まだ話は終わってないと言わんばかりの残月の顔に俺はげんなりしてしまったのだった。


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