10-2.陽光
侍従の案内で藤壺まで行ったものの、霞の母親である女御が面会を許さなかった。だけど霞が気付いたのか俺に飛びついてきたので向こうになった。
「兄上も狐もよく来てくれた!父上とのお話は終わったのか!?」
その言葉で藤壺の女御に入ることを許されたが、子供がいるから仕方ないにしても、終始女御が傍にいたし礼羅は突然猫を被って大人しくなったので居づらかった。
霞は「また来てくれるか?」と聞いてきたが、「その時が来れば」と曖昧な言葉に留めた。
ちなみに吉平の出立は三日後になった。急な事で内裏から戻ってきた際、話を聞いた北の方も目眩で倒れそうになっていた。
「……そんな突然……お兄様はなにをしていらっしゃるのでしょう」
北の方は兄である陰陽頭に呆れるが、俺の代わりに行くことになってしまったので申し訳なく感じる。
そして礼羅は陰陽頭と北の方が兄妹であることに驚いていた。
それから宮中に戻った残月が式神の文で伝えられたことだが、俺が清涼殿の魔物を祓ったのではなく、主犯を術で殺したことになっており、得業生である吉平が上国の目になるという異例の大出世で話が持ち切りだったという。
なんでも俺が出雲に行くのを嫌がったから吉平に任せたということになっているらしい。いつもの事だが噂が二転している。
晴明殿の屋敷に戻った吉平はすぐに晴明殿と話をしに行った後、やたら分厚い書簡を持って戻って来た。
「吉平兄者、その書簡は……」
「父上からのお使いだ。まったく、息子への扱いが酷すぎないか?」
書簡には播磨の二文字がちらりと見えた。道中その辺の伝承やら秘術やらを集めてこいということらしい。
「兄者、帰りはともかく勅令なのですから、行きはまっすぐ出雲に向かってくださいよ。道中播磨で数ヶ月道草食うなんてことをしませんように」
見送りとして屋敷に来ていた吉昌が言う。それをフラグというのだよ吉昌兄者。
吉平は弟からの小言に苦笑しつつ言い返した。
「そっちこそ、また奥方を泣かせる事はしないように」
「それは向こうが勝手に……!」
「吉昌」
「……気を付けます」
吉昌は奥方と何があったんだ。
「しかし兄者が都に戻れるのは四年後ですか」
吉昌がつぶやく。
国司の任期は大抵四年だ。昔は六年くらいだったそうだが。それでも長い。
「黄泉の主の声が聞こえたら出雲に来てくださいますか?太守殿」
「声が分かっても祓わないと行けないだろう。目殿」
「そうなんだけどさ……」
突然の別れは寂しいものだ。
「こちらでも早く解決できるよう努める。吉昌兄者もいるしな」
「……そうだね」
何か気がかりがあるのだろうか、吉平が見たのは西の対の方だった。




