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10-1.陽光


 赤い空は悪魔が仕掛けた結界の中で、俺が失敗作だと思っていた鳩の式神はその結界を突き破ったことになる。

 範囲は清涼殿のみで他は巻き込まれたわけではなく、吉平の結界がなければ全員死んでいた可能性があった。

 その結界が破けたことによって、陰陽頭と晴明殿がやっと清涼殿に入ってこれたようだ。

 近衛でも調査が入ったが、二人の占いで突然倒れた男が俺に仕掛けた呪詛であることが更に明確になった。礼羅が内親王と共に持ってきた黒漆の文箱と髪の毛が編み込まれた組み紐がその証拠だという。


 清涼殿で倒れたのは先帝の孫の侍従だった。派閥争いの犠牲になったのだろう。主である先帝の孫(俺の従兄弟にあたるが)にもおいおい事情聴取がされるだろうとのことだ。

 ちなみに礼羅が証拠品と共に連れてきた「霞」と呼ばれた内親王は、七年前の火事の後に参内した女御の子だった。つまり俺の叔母に当たる。子供に男がいると聞いていたが残月に聞くと人差し指を立てられた。

 内親王は清涼殿近くまで一人で遊んでいたら巻き込まれたということだった。そして霞は神隠しにあったと騒いでいた乳母によって元の住まいである藤壺に連れ戻されることになった。


「さ、姫様戻りますよ!」

「いやじゃ!折角兄上にお目に書かれたのにお話し出来てないしそこの狐の尻尾も触ってない!」

「え、あなた私の尻尾見えるの!?」

「おいこら!」

「あいたっ!?」


 大勢の場で素に戻った礼羅に思わず笏で頭を叩いた。猫かぶりの意味がなくなったじゃないか。帝が笑いをこらえていた。

 しかし霞が駄々をこねるのは帝にとって珍しかったようで、その後藤壺へ俺と礼羅が向かうことで話が落ち着いた。


『あなた妹に懐かれたわね』

『懐かれたのはお前だろ』


 俺は何もしてないぞ。それに不敬だぞ。

 本来なら後日に改めて行うはずだが帝は「急を要することだから」と当日に仕切り直すことになった。急を要する理由が分からなかったが、清涼殿には瘴気が残っていなかったのが幸いしてすぐに行うことになった。


「陽光を三品に上げるとともに、出雲守(いずものかみ)に命じる」


 うるさい奴がいなくなると雰囲気も厳かになる。既に上の者達に根回しをされていたのか右大臣ですら黙っていた。てか元から知ってたならなんでこの場にいるんだ。


「と、言うつもりだったが気が変わった」

「は?」


 誰が口に出したか分からない。だが誰もが同じことを思っただろう。

 他は知らんが俺は出雲行きなんて今初めて聞いたのに。


「出雲は別の者に任せる」

「お言葉ですが陛下」


 先に口に出したのは関白、もとい太政大臣だった。


「なんだ申せ」


 帝は振り向かずその場で問う。


「黄泉の主の天啓を受けるには皇子(みこ)が望ましいと仰ったのは陛下ではありませんか。なぜ取り替えると?」


 戸惑っている、という様子では無い。その場にいる者らと答え合わせをするための問答か。


「あぁ。だが、其方は今回のを見てどう思った」

「……あの騒ぎそのものが幻にも思えましたが、夜が明け、鳥が日が差す様子は天照が降臨なされた様に思いました」


 いやそれはないだろ。

 左大臣とはあまり面識は無いが、昔は帝の侍従をしていたと聞くから二人で示し合わせているように見えてなんだか嫌な予感がする。


「先日祓った魔物も件の魔物もどちらも天の御子としての力が必要となるだろう」


 そんなわけあるか!なんてはっきりと言えない。


「陛下、以前も申しましたが、アレは――」

「余は陽光の雄姿を見て確信した。理由はそれで十分だ。だがそれだけではその根を断つことは出来ない」


 絶対に「魔物と同じ力を持って祓った」なんて言わせない雰囲気を感じる。

 俺が言った詠唱はアマテラスに唱えた祝詞とも捉えられる。だが俺がやっているのは前世での知識と痛々しい黒歴史の産物を再現したものが偶然出来たものだ。今やれと言われたら恥ずかしくて死ぬ自信しかない。


「ですが殿下が出雲に行ってしまわれては、その間、誰が『天の御子でないと祓えない魔物』を祓うのでしょう」

「左大臣殿!」


 右大臣は咎めるが、帝は「よい」と言って留める。

 遠回しに帝は天の御子でないと言っているようなものだ。


「だが出雲行きは決めてしまった。はてどうしようか……」


 いやそんな簡単に取り消せないものなのか?


「殿下には名だけ残してもらい、目(さかん)を付けさせてはいかがでしょう」


 は?


「……余としては遙任(ようにん)させるのは好ましくないが、仕方あるまい。そこにいる、晴明の子よ」


 いや待て待て待て!


「陛下、吉平殿は兄弟子であって私の侍従ではありません」

「なんだ違うのか?だが仲は悪くないだろう?確か奴はそちの得業生だったな、陰陽頭よ」


 殿上人という事で後始末が終わった後もそのまま清涼殿に残っていた陰陽頭が冷や汗を流しながら同意する。


「はい。お言葉ですが陛下、彼は得業生でありながら好奇心が強すぎるところがございまして、他の部署にまで首を突っ込み迷惑をかけてしまう問題児で……」


 吉平は何をしてんだ。


「だが陽光からの信頼はあるのだろう?余の住まいを一時でも護る力はある。陽光が魔物を祓っている間の護りは奴がしていた」


 陰陽頭が目を見開いて顔を上げた。


「……陛下がそこまで見てくださっていたとは、勿体ないお言葉、ですがしかし」

「追って話を付けよう」


 何も言えなくなった。

 吉平は顔に出ていなかったが、かなり動揺している。出世欲はあっても都から出るなんて想像していなかったからな。


「話は終いだ。ほれ、霞が待っているのだ。少しばかり遊んでやれ」


 その言葉でこの場は解散になった。


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