9-5.礼羅
2024/02/17 昌平を吉昌に統一しました。もし見落としがあったら報告してくれると幸いです。
よく分からない鹿頭を陽光に任せて私は魔力の匂いを辿る。
さっき偽物の晴明を倒した際に感じた魔力は清涼殿で感じたモノと同一だった。
「お膳立てしたんだから倒しなさいよ」
正直言うと私も陽光が術を使う所を見てみたかった。だけどあの鹿は私にとっては分が悪い。
(私もまだお婆から離れ切ってないのね……)
この前覚悟を決めたはずなのに、まだ私の中にはお婆がいるらしい。
清涼殿の方を見やれば昼御座には吉平の結界の中で陽光の戦う様子を物見している貴族たちがいる。その中心には帝が一番前で眺めていた。こんな緊急事態にお遊び感覚で見ているのは異常だ。
結界越しに響く椿の梓弓の音ですらただの余興に聞こえる。一回脅かしてやろうか。
「主のお傍を離れるなんていけませんねぇ」
その声に思わず背筋が伸びる。
「残月……」
「本当に礼儀のなっていない娘ですね」
「そ、そちらこそ帝の傍にいなくてよろしいのでしょうか?」
「天文博士のご子息と神祇少副の娘がいらっしゃいますから問題ありませんよ」
役職を持たない者をその親の役職で呼ぶのはよくあることらしいけど、残月は私が身分とか役職を知らないの分かってて言っているような気がしてくる。
とはいえ『すないすけ』の娘とは椿のことだろう。
今の残月はやけに冷たいと思えば、後ろから見られている気配がする。アレを警戒しているのか。
「あの方は神仏に縋る弱さはありますが、私がいなくても戦えるくらいには強いお方です」
「おや、何故そう思うのです?」
「だってあの方は強がりこそしますが、己の弱さは認めるお方ですから」
残月はふっと目を細めると袖の隙間から指でそっとどこかをしめす。そこに何かあるのだろうか。
「私も神官の端くれ、周囲を見て回っていたのです。ですが生憎私は神に身を捧げた身ですから、穢れたモノは自ら触れられないのですよ。それこそ、貴女のような歪な 狐でないとねぇ」
含みのある嫌味に聞こえるが行くしかない。
「ならわたくしの代わりに、主様の祓うお姿をその目で焼き付けてください。誰かさんが触れないと仰るから行かないといけませんの」
すれ違いざまに舌を出してやる。
残月のそれが勘違いだったのなら承知しない。
礼羅が行く先を見ていた残月はくすりと笑みを浮かべる。
「……それは嫌味にならないのですがねぇ」
彼女の帯に刺さっていた竹の切れ端はおそらく梅の君から貰った扇だったものだろう。諍いの声が聞こえたがまさか己の技を見様見真似で再現していたという訳ではあるまい。
今度彼女には丈夫な檜扇の一つでもあげようかと思ったがあのお方が妬いてしまいそうだから、そっと助言するに留めようかなんて考える。
音もなく屋根に上がり礼羅を追いかけようとする輩に残月は檜扇を向けると、音を立てて屋根から落ちていった。
「覗き見なんて質が悪うございますねぇ」
まァ、自分は分かっていて敢えて見せていたのだけれど。




