6-4.陽光
帰りの牛車では御者があくびをしているのが小窓の隙間からちらりと見えた。
少し眠い。流石に酒を一気飲みするのは良くなかったか。
「陽光、この後話しできない?」
礼羅の一言で椿の君がまた挙動不審になっているかと思えば扇越しに覗く目元がとんでもなく怖い。
「明日にしろ」
「流石に二人きりにはならないわよ。二人きりだと猶更貴方はぐらかしそうだもの」
「君そこまで陽光への信頼ないのかい?」
晴明殿も普通に会話に加わってくる。
「説明が面倒なだけだ」
「そういうところよ。帝も貴方とよく似てる」
たった少しの時間だけ会話をしただけで似ていると言われるのは癪に障る。
「お前に帝の何が……」
「あなたが帝を嫌ってる理由は知らないけど、あなたが家臣に降りるのを帝が嫌がった理由分かってないでしょ」
「やめなさい、礼羅。それ以上陽光の古傷に障ることだ」
俺をフォローしているつもりかもしれないが、あの記憶を古傷だと断言されたくもなかった。
「礼羅。君は陽光が皇子であることを知らなかったんだろう。陽光は自分の身分を明かすことはしないからね」
「……そうよ。陽光を見下す人も多かったし。まさか帝の子だなんて思わないわ。それに甘んじている陽光も陽光よ!」
「知るか。どうせ知らないんだろ。勝手に言わせておけ」
皇子だから猶更威厳に関わると言いたいんだろう。勝手にしろ。
「陽光アンタそれで悔しくないの!?」
四人の袖が舞う。俺を掴みかかろうとしていた礼羅の手を椿の君が扇で叩き、礼羅に手を伸ばしていた俺の腕を晴明殿が掴んでいた。
椿の君は扇の骨で思い切り叩いたのか礼羅は腕をさする。
「いった……!?」
「礼羅今のはいけません」
「だからって!」
「礼羅、人を詮索するのは従者のすることじゃない。覚えておくといい」
「……悪かったわね」
互いに元の場所に座りなおす。二人から諭されても礼羅から反省の色が見えない。
「陽光も、従者の言動にいちいち噛みつくのは主のすることじゃないよ。その様子じゃあ、帝に大分酒を飲まされただろう」
「…………はい」
腹の座りが悪い。まるで自分が子供に戻ったみたいだ。
「……ところで、なぜ陛下は礼羅を呼んだのでしょう?」
椿の君が話題を変える。正直帝の話はもうやめて欲しいんだが。
「顔を間近に見ておきたかっただけだろう」
「そ、それだけですか……?」
「しっつれいな奴ね」
お前が言うか。
結局礼羅の母親が誰なのか帝は一切口にしなかった。
「礼羅を妃にしたいのかと……」
「「はぁ!?」」
「二人とも声が大きいよ」
はたと礼羅と目が合って思わず顔を逸らす。
「それはない。入内できるのは帝と所縁がある者だけだ。そもそも礼羅は半妖だろう」
「そうでしたね……」
礼羅も安堵する。なんで俺まで安心しなきゃいけないんだ。
「でも今度内裏に行くことは取り消さなかったね」
また帝と会わないといけないのか。
色々と言われそうだし、忘れない内に準備しておいた方がいいかもしれない。
「晴明殿」
晴明殿に一つ伝えるとむくれていた礼羅は明らかに驚いた顔をしていた。




