↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/156

5-3.礼羅


 右近衛府(うこんえふ)の前に着くと武装した者がちらほらと見えるが全員出払っているのかそこまで多くない。

 だけどすれ違う者は皆陽光を見て訝し気に見てその後ろにいる私に悲鳴を上げる。本当に晴明はこのお面を孫にあげるつもりだったのだろうか。


「お待ちを、ここから立ち入りは禁じております」


 建物に入ろうとしたが一人の近衛の者に止められる。


「私の式神だ。連れてきて何が悪い」

「お前もお前だ。布で顔を隠すなんてよほど顔に自信が無いのか?」

「嵐山殿に失礼じゃろう。それに儂もつけておるんじゃが?」


 陰陽頭もここに向かう前に白の覆面をつけていた。覆面は魔物に顔を覚えられないようにするためらしい。しかし近衛の者は何か思い出したかのような顔をした。

 気色悪い。なんだか嫌な予感がする。


「私の歌を読んでいただけましたか!?」


 出たわね私へ文を送った奴第一号――!

 そう思ったら近衛が近づいてきたのは私ではなく椿の方だった。


「どうか歌の返事をいただきたいのです」


 陽光を押しのけて椿に近寄ってくる。

 椿は北の方から貰った扇を構えて、一歩退いた。


(この人やっていい?)

(絶対にやめろ)


 面越しに陽光へ視線を送ると分かりやすく首を横に振られる。

 その間椿がそっと横にずれても男は彼女の前に立ちはだかる。


「そこの御方、困っているですから近寄るのは止めて差し上げて」


 わざと割って入れば明らかに男は嫌そうな顔をする。椿はそっと後ろから私の袖を引いていた。震えている。


「其方には関係ないだろう」

「なら貴方は椿さんとお知り合いなのでしょうか」

「椿……?」


 男は怯える椿を上から下までまじまじと見る中、陰陽頭が口を出した。


「椿の君は神祇伯の孫娘じゃよ。そうでなくとも女人に対して無礼じゃろうて」

「あぁこれはすまない……人違いだったようだ」


 すぐに男が後ずさる。椿は深く息を吐いた。相当怖かったようだ。


「ならその面を付けたあなたでしたか!」


 は?


「……なんのことでしょう。それに貴方はどなたです?わ(・)た(・)く(・)し(・)の(・)主を押しのけてくるなんて無礼にも程があるでしょう」

「なっ、私は近衛だぞ!この官位のないものよりも」

「だからその近衛?も何も存じませんの。山で育った狐にそんなことを言われたって首を傾げるだけですわ」


 本当は近衛の役割くらいは知ってるけど、この男はなんだか癪に障る。


「待てらい、っ夜半!」


 陽光がその場で私を窘める。今礼羅って呼びかけたな。


「いいえ、いけませんわ主様、ここで有耶無耶になってしまったら今後に障ります」

「あなたはこの白髪の者に惑わされているのです!あなたのような方は私が相応しい」

「仕える主は自分で選びます」


 こういう者を当て馬と呼ぶのだろう。お婆が言ってた。


「噂は本当だったようだ」

「噂……?」

「白髪の者は人の手紙を燃やすという。私があなたに送った文をこの者が燃やしたのです!」

「大量の文の山は見ましたよ。読んでませんが」

「っ……あなたはこの者に囚われてる!私ならあなたを自由にできるます!」


 今にも触れられそうな距離まで詰め寄ってくる。

 後ろにいる椿さんにはすぐに陰陽頭の方へ逃げてもらったが、この男は不快だ。


「なら、私に送った文の内容を教えてくださる?」

「え?」

「私の為に書いて送ったのよね?心を込めて。なら全てでなくともどんな文を送ったか覚えてるでしょう?私全ての文を読んでませんし誰がどの文を送ったのか存じませんの」


 この場にいた周囲も興味津々に私達の様子を眺めた。

 近衛は狼狽え始める。


「なぜこの場でそんな……」

「なぜってあなたが返事が欲しいと仰ったからです」


 それでも相手の魔力がなければ論外だけど。しかし待っても男が文の内容を口にすることはなかった。


「覚えていらっしゃらないのですね。ならわたくしから言うことはございません。そこを退いてください」

「っ、人を入れる訳にはいかない!」


 チッ。去ってくれなかったか。そして文関係なく誰も右近衛府に入れるつもりがないらしい。


「わたくし達だけでなく主様や陰陽頭も入れないのですか?」

「忌むべき者を入れたら穢れるだろう!」

「これ!何を無礼なことを言うか!」


 陰陽頭は憤りを見せるが、陽光は黙っている。

 本当に陽光を忌み子だと呼ぶ者がいるのか。人よりも魔力が多くて、白髪赤目以外に邪悪な要素はどこも感じないのに。それを言うなら晴明の方が邪悪だ。


「主様は先日内裏で帝の御前に参られたと聞いております。その方がなぜそこには入ることが出来ないのでしょうか」

「っ!?」

「わたくしの主様がどんなお立場であるかは存じません。ですが一番穢れてはならない場所に足を踏み入れることを許されたお方が、この場に入れないとなると、まるで――」


 言い切る前に後ろから陽光が私を抱き寄せてはお面越しに口を塞いだ。


「もういい、黙れ」

「でも!」

「これ以上騒ぎにしたくない」


 気付けば騒ぎを聞きつけたのか建物からもそぞろに色んな人が顔を出してきたので人も多くなる。周囲は大勢の人間が私達を見ている。

 だけど後ろからやってきた初老の男が割り込んできた。


「これは何の騒ぎだ」

「おお、右中将(うちゅうじょう)殿!」


 右中将と呼ばれた男は「ほらお前たちも持ち場に戻れ!」と声を張り上げて散らせる。先ほどの男もいなくなった。

 名前からしてこの場の長だろうか。陰陽頭が一連の説明すると右中将は平謝りした。


「わざわざご足労いただいたのにうちの者が申し訳ない。……ところでお二人は、その……仲がよろしいことで……」


 傍から見れば私は陽光に後ろから肩を掴まれている、を通り越して抱き着かれている状態だ。陽光が慌てて手を離した。


「不甲斐ないが私も今し方来たばかりで状況を知らないのです。他の者に案内させましょう」

「よろしく頼みます」


 私と陽光も後に続く。その際小さく「ありがとう」と声が聞こえたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。