5-1.礼羅
「瘴気の気配が出た。先日と同じものだ。私はこれから内裏に向かう」
「右獄に何かございましたか」
「そのことは書かれていなかった。ほら」
陽光が文を受け取ると、灯りの近くで中身を検めた。すると灯りに照らされた彼の眉間に皺が寄る。
「瘴気は祓ったが都には未だ病が回復していない者が多い。これでまた瘴気が流れてでもしたら、以前よりも死人が多く出るだろう。まだ瘴気は濃くないから今のうちに椿も連れていく」
「椿さんを!?」
彼女も結界を作ったり覚えがあるようだけど、あれほどの瘴気を対処できる力があるだろうか。
「彼女は元々神官の娘だ。浄化の力は強い。前は既に気づいた頃には瘴気が濃かった故、屋敷から出すことは出来なかったけど今のうちなら向かうこともできるだろう」
「それなら私も――」
「君は陽光の式神だろう?」
勝手に連れ出したお前が言うな!
だけど陽光を見れば深刻そうな顔を浮かべている。
「私も行きましょう。物忌も本来は休みの建前です。礼羅も」
あれ、彼は都に行きたがらなかったのではなかったか。
「陽光、良いのかい?」
「放っておけませんから。それに俺が嫌いなのは、貴人らの視線や陰口です。こんな夜分なら彼らも怯えて出てきますまい」
同じことを考えていたらしい晴明の問いにそう答える。
初めから気にしないでいればいいのにと思ったけれど、私も少しだけ心当たりがあったので口をつぐんだ。
「分かった。あぁ、あと礼羅はこれを」
「ひっ!?」
ポンと私の膝に出てきたのは化粧をした強面の狐の生首……ではなく木彫りで出来た作り物だった。だけどなぜ裏が削られているのだろう。
「これは、狐面ですか……?」
「以前陽光が作っていた面が面白そうだったから職人に作らせた。漆を塗ろうかと思ったんだけど折角だから白粉と紅で化粧をさせてみた。
目の穴は開けていないけど外側を覗くことができる術も施しているから見えるよ。本当は孫にでもあげようかと思ったんだけど」
つまりこれで顔を隠せと。
だけど孫にあげるにしても不気味すぎないだろうか。
「晴明殿、これを孫にあげるのはどうかと……それに赤子は何でも口にしますから……」
「そうかい?難しいな……とりあえず今は礼羅、君の顔にこれを付けなさい。あ、陽光もいるかい?今日も覆面を付けるだろう?」
「結構です」
一先ず顔に着けてみる。後ろの紐は陽光が結ってくれた。覗き穴もないのに本当に視界が悪くない。
「これを付けれておけば言い寄ってくる人もいないのかしら……」
「それは無いな。後ろ姿だけで言い寄ってくることもあるらしいし」
後ろ姿は、まぁ……私の髪も綺麗だし。そういうこともあるか。
かの方が恋のわからぬ君の月。背を見る夜は、いつにならむや




