表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が家を建てるまで  作者: 二糸生 昌子(にしお しょうこ) 
24/41

私が家を建てるまで 

父は、良美を溺愛した。が、弟には会社設立のために

巨額の資金を出している。弟の息子が、東大に入り、

父善次郎はそれを自慢にするようになった。

義一だって、勝ったと思っているに違いない。本当に悔しい。

だから、和歌子には、立派になって欲しい。

恥ずかしくない娘でいてほしい。

「お母様、お母様はご存知ないかもしれませんが、和歌子は素敵な女性です

グループを作れば、彼女はいつも中心的存在になるんです。

なぜだと思いますか?彼女は誰よりみんなのことを気遣う人だからです。

和歌子は本当に優しい人です。でも、決して自己犠牲的ではないんです。

しっかりと言いたいことを言います。自分の望むことを、恐れずに言えるんです。

だから、みんな彼女を信頼します。いつも

本心で付き合って、自己犠牲などという嘘をつかないからです。お母様の娘は、本

当に素敵な女性です」   


良美さんのタバコに伸ばした手が止まったまま綺麗な指が小さく震えていた。

彼女の顔は能面のように硬かったが、その瞳には涙があった。

それでも彼女は言った。優しいなんてことに、どんな価値がありますの?

「和歌子のことを、愛さない人間はいません」


「コーヒー ごちそうさまでした」

八子は席を立った。「さようなら」良美が言った。

良美のさようならは、孤独な世界に一つだけで落ちていったように感じられた。

夜の庭に放り投げられた玩具のように。

悲しかった。

この悲しみは私の中にもある、子供の頃からずっと取り残されてきた悲しみだ。

私の闇の庭に放り出された小さな玩具。

私はこの孤独な玩具を、いつ片付ける事ができるのだろう。


近所にある公園の前を通りかかった時、

「おう」

外町が声をかけてきた。

「何してるの?」

「相変わらず、宿探しさ」

「自分の部屋、持ってないの?」

「持ってるさ。結構いいやつを」

「じゃあ、そこに帰れば?」

「ほら」

手が差し出された。

何?

「手を繋ごう」

「なんで?」

「理由が必要?」

この間の居酒屋で、思わず空のビールジョッキを握りしめた手に、手を重ねて

くれた外町。あの手は好きだと思った。

八子の遠慮がちに差し出された手を、外町の手が捕まえた。

強い男の手の温かさが伝わって、八子は少しだけ泣きたくなった。外町ならそ

れを受け止めてくれるのではないだろうか?

けれど、八子の口から出たのは「ビール 飲もうか?」だった。

「元気が出たか?」

「出た出た」

「俺のお陰で?」

「自力で」

「よし!飲もう。お前ん家で」

「・・・・・」

「・・・・・」

「いいけど」

「じゃあビールと、つまみは、砂肝の」

「もっと感動してくれない?」

「感動?何にだよ?」


「そうかあ、いいのか。やっと部屋に入れてもらえることにOKが出たんだな」って、

そう言うの。

「お前は子供か。そんな言葉なんか期待してないで、俺と初めての夜を楽しめ」

えっ

「えっじゃねえ。子供か。お前は」

この夜、外町と500ミリの缶ビール9本、日本酒5合を呑んで酔いつぶれて終わった。


「ばっかじゃないの?」と十三。

「そんなに飲んじゃう前にさあ、いいムード作れなかったの?」

「作れないよ。外町だもの。ああ言えばこう言う。人のことからかってばかりだし。そ

れに飲んでいる間、女からラインメールが入りっぱなしだよ」

「見たの?」

「見た。見せてって言ったら、いいよって見せてくれた」

「オープンだねえ。なんて書いてあったの?」

「いつくるの?」「待ってるのに」「プレゼント、忘れないでね」

「コウちゃんが好きな花が、ベランダで咲いたよ」


「くわ〜〜〜〜〜っ そりゃあ大分親しいね」

「でしょ?

それをだな、初めての夜に見せる?」

「俺はこういう男だから、承知で付き合えよ。文句は言うなよってところか?」

「だよねー。あ〜〜腹が立つなあ。。。」

「それでやけ酒?」

「そう、飲んでやったさ。あんな男にどう思われてもいいもんね」

「八子、今までとは違うじゃん」

「違うって?」

「今まではさあ、もっと乙女チックだったじゃん」

「私が?」

「もう、世界の中で一番素敵な彼に出会ったの〜〜ってな目をして、彼はこんなの

好みかしら?なんてさあ、料理の研究までして」

「そりゃあ、惚れてたもの」

「くだらない男にね」

「そうだけど、みんな最初は私の理想とマッチしているように見えたのよ」

「今のは?」

「全然。もうどうでもいい、あんな男」

「へえ〜〜〜〜〜〜」

「何よ」

「いいじゃん、八子が素で付き合えるって」

素で付き合えるってのにも程がある。私が考える私の素以上を発揮してしまうのは、

どうなのだろう?

「十三、本当に私恋してないよ。外町なんかに」

外町はうちに泊まった翌朝、勝手に米を炊いて大きな塩むすびを七つも作って

そのうちの五つを包んで持って行った。

うちの電気釜で炊けるだけ炊いて。インスタント味噌汁をお椀に作りながら

「いかに自炊をしていないかがわかるなあ」と言う。

「うるさい。アシスタントの仕事は泊まり込みが多いから、食事を作る暇なんてない

んですよ」

「普通あるぜ。忙しい家にも。味噌とか、砂糖とか」

「ふん」

「じゃあ、行くわ」

「はい」

「あ、今夜深夜にやる映画観てよ。俺出てるから」

「え〜〜〜っ?」

外町の階段を駆け下りる足音を聞きながら、私はゆっくり布団から出た。

映画は時代劇だった。

どんな役かもわからないので、目が離せない。内容は、忠臣蔵と何かを

混ぜたようなものだった。外町の役は、浪人で、主君の仇を討つ一党の

一人。セリフはたった一言「敵は門前仲町に!」だ。

敵は本能寺にありと被っているようにも思えたが、外町の浪人姿は、な

かなか似合っていた。


登坂先生が休業したので、他の先生を紹介してもらおうと思っていた矢先、

編集者から連絡が入った。

「大尊寺さん、カジキ マグ先生のところに行ってくれない?」

「カジキ マグロ?」

「カジキ マグだよ」

どういった作品を描かれる先生ですか?釣りですか?

「とんでもラッキーくん」というギャグ漫画を、子供向けの雑誌に連載されているんだ。

カジキ マグ先生は、つつじヶ丘のご実家で漫画を製作されている、36歳男子。

大尊寺さんに頼みたいのは、作品を確実に編集者に渡すまで、

先生をしっかり見張ってもらいたいってことなんですよ。

見張るって何でですか?

「まあ、事情は会ってから、とにかく急いでカジキ先生のところに行って」


よく分からなかったが、とにかく急いでカジキ マグ先生のお宅に伺った。

玄関ドアの前に立った途端、ドアが勢いよく開いて白い物体が飛び出してきた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ