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私が家を建てるまで  作者: 二糸生 昌子(にしお しょうこ) 
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私が家を建てるまで 

岡本が、八子の前に座った。そして、深々と頭を下げる。

どう言う意味なんだろう?と、八子は思う。

「本当に申し訳ありません」

「何がどうなんですか? 桜木和歌子は今どこにいるんでしょう?」

「申し訳ないです。知りません」

岡本の手には、目に刺さるかのような白いハンカチが、握り締められていた。

その手の白さに、八子は軽い嫌悪を覚えた。

岡本が話し始めた。

「私は3年前から、桜木和歌子さんとお付き合いしていました。

私は三十四歳で、子供が二人いる妻帯者です。妻とは中学校からの同級生であり、

その頃から付き合いだして十年前に結婚しました」

と言うことは、岡本夫妻は、かれこれ二十年は一緒ということになる。


妻の恵と一緒になって六年目に双子の女の子が生まれた。

けれど、双子を育てる大変さから、恵はノイローゼ気味になり、

夫に当たり散らすようになった。家事を手伝おうにも、

何をどうしたらいいのかわからず、返って妻の怒りに火をつけた。

岡本は次第に家に帰ることが苦痛になり、毎晩飲み歩くようになった。

その頃、桜木和歌子と出会い、岡本は和歌子の部屋に

転がり込んで夫婦のように暮らし始めた。

だが、時々は、自分の子供に会いに自宅にも帰った。

妻には、撮影所で間借りしていると嘘をついて。

子供は二歳になって、たまらないほど可愛く思えた。でも、

妻とよりを戻す気はないままだった。

ただ二人の子供の存在が夫婦に安らかなひと時を与えてくれた。

岡本は二人の子供と、和歌子の間で揺れた。どちらを取るかに

恵は入っていなかった。

けれど、ある日の夜、自宅から和歌子の部屋に帰ろうとし

ていた玄関に珍しく恵が来て立った。

どうしたんだ?と聞きくと、恵は「帰ってきてよ」と言った。

「帰ってきてるじゃないか」

「もっとよ」

岡本はスタントの仕事だけでは食べていけない。

二軒の小さなバーを掛け持ちでバーテンとしても働いていた。

そろそろスタントをやめて、自分の店を持ちたいと和歌子に語った。

和歌子は喜んで、幾らかの資金の提供を申し出てくれた。

岡本は、和歌子の援助をを受けるつもりはなかったが、

自分を想ってくれる和歌子と一緒にいられる幸せを感じていた。

今、恵に本当のことを言おうか。別れて欲しいと言おうか。

「行っていいよ」突然恵が言った。

「ど、どこへ?」

「あなたが好きなところに」

「なんでそんなことを言うんだ?」

「あなたが行きたがっているから。私は子供の頃から、あなたと一緒にいたいって

願って、あなたにはその通りにしてもらってきた。二十年もね。だから、もう自由

になってもいいよって思っているんだ」

「じゃあ、なんでさっき帰ってきてって言ったんだ?」

「ずっと言いたかったことだから。でも、私はイライラが止まらなかったし、あな

たに当たり散らすでしょう?言えなかったんだ。あなたが本当のことを言いそうで」

「本当のことって?」

「お前と別れたいって」

その夜岡本は、和歌子とその友達と飲む約束をしていた。

和歌子は自分を親友に自分を紹介したいと言い、4百万もの金を振り込んできた。

二人の関係が揺るぎのないものだと、和歌子が確信している証だ。

だが、二人の関係があやふやなものではなくなったと和歌子が信じた途端、

湿った暑苦しい混沌だけが二人の未来に流れていることに気づいた。

「私は、約束の場所には行きませんでした。和歌子とは、それきりです」

なんだあっそりゃあ〜〜っ?

陳腐なラブストーリーを長々と聴かせやがって!

この男を殴りたい!拳を握った八子に外町が囁いた。

「俺がもう殴った」

やるじゃん、外町。

「でっ、和歌子は・・・・」

「知りません・・・」のよね。

「岡本さんと和歌子の部屋はどうなっているんですか?それ以後、和歌子と話し合ったんですか?」

「・・・いいえ」

「お金は返していないんですよね」

「はい・・・でも借りたというより・・・いただいたというか・・・」

いただいた?

「バーを買う資金にと、振り込んでくれまして・・・」

「そのお金、いただけるわけないじゃないですか!

和歌子は一緒になると思っていたから、二人のために振り込んだのですよ。

関係がそんな形で終わったんですから、和歌子に返してください」

「今、なくて・・・」

「バーを買ったんですか?」

「いや・・」

「じゃあ使ってしまったんですか?」

「はい・・・まあ・・・・」

呆れた事にこの男は、事もあろうに妻へのサプライズに使ったという。

「奥様にこの1ヶ月で4百万ものサプライズって、どんなことをされたんでしょう?」

「いえ・・・妻へのサプライズは、ディズニーランドに行って、

ホテルに泊まったり・・・2泊しまして、食事をして・・・その・・30万ばかり・・」

「残った3百70万円は?」

彼は、自分が働いてためた金だと妻に嘘をついて喜ばせていた。

和歌子に代わってボコボコにしてやりたいと八子は空のビールジョッキを握りしめた。

その手を外町が止めた。

「お前、やばいな」

「うるさい。外町」


それからわずか数日後に、桜木和歌子の母親からまた連絡が入り、

八子は会うことになった。


ファミレスの、妙に軽いコーヒーをすする八子の目の前に、

桜木和歌子の母親、良美が座った。

例のデニーズ、喫煙ルームだ。

「和歌子から何か連絡はありましたか?」

「いいえ。何もありません」

「変ねえ。連絡は来ることになっているのよ。親しい人に」

「連絡が来ることになっているって、どういうことですか?」

「占い師に言われたんですの。古いお友達が知っていると」

「古い友達は、大勢いると思います。私だけではないと」

「役に立たないわねえあなた、本当に」

へいへい、申し訳ございません。

「だいたい、偏差値の低い学校なんかに行かせたのが間違いでしたわ。もっといい

ところに行けたのに。大学なんか行きたい時に行くなんて言って、就職は私の弟

の会社ですから嫌になるわ。ステンドグラスなんか作っているんですのよ、ステ

ンドグラス。つまらないものを作って、ねえ」

いえ、つまらないものではありません、ステンドグラスは!

「プラスチックですのよ。弟が作るものなんか、紛い物ばかりですよ。所詮偽物の

弟が作っているのですから、プラスチックが妥当っだってものですけれど」

このおばさん、毒を吐くなあ。。。

「娘は弟のところで経理をやっていましてね。着服したんですよ四百万」

よ・・・・・・4百万? 4百万て・・・・

しかし、このおばさん、娘のことなのに、軽く言うな〜・・・

「あの子はバカですよ。私、翌日に返しておきましたけど」

ああ、良かった。和歌子は犯罪者にならずに済んだ・・・・・・

けれど、なんだろう?この違和感は?気持ちの悪さは?

「だいたい、和歌子は父親似ですから、ダメなんです」

良美は1時間和歌子や和歌子の父親、弟の悪口を言いつづけた。

「立派なのは、私の親だけですわ」

そいつが一番悪いのでは?と八子は思った。だって、あなたを育てたのだから。口をついて出てきそ

うな言葉を、思い切り飲み込んだ。良美は、タバコに手をかけた。

この1時間の間に何本に火をつけただろう?

灰皿の吸殻は盛り上がって、今にもこぼれ落ちそうだ。

「だいたい、弟の義一は昔から頭が悪くてね、随分助けてやったんですよ。

ですから、和歌子にとやかく言う資格はないんですよ。

それなのに、私にまで偉そうに。自分の子供が、東大に入ったか

らって、そんなことを鼻にかけて和歌子をこき使ったんだわね。

だから和歌子は苦しくなって、お金を盗んだりしたんですわ」

いいえ。お母様、和歌子は妻子持ちのクズ男に貢いだのですわ。

逃げたかったのはお母様からではないでしょうか?

「ちょっと八子さん、聞いてます?」

「はい。聞いています」

「私の人生は子供の頃から競争なんです。和歌子を育てることにも失敗は

許されないんですのよ」

私、父のお妾さんの子供なんです。

「えええっ?」

本妻の子は弟の義一。良美は六歳の時母親が亡くなったために、

桜木家に引き取られた。

義理の母になった本妻桜木秀代は、何にも言わない人形のような人で、

良い人だったが、良美にとってはどうでも良い人になった。

良美はただ、父親善次郎に愛されることに懸命になった。

弟の義一より何倍もの愛を、もらいたい。

良美は、父に甘え、父の好む女性へと変貌していった。



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