↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
74/77

第二幕 第五十三場

 村長の屋敷の広間では、馬鹿なハンスの突然の死に人々は驚愕していた。


「なんということだ!」神様がハンスのもとにかがみ込むと、その手からグラスを取り、底に残っていたワインの残りを指ですくってぺろりとなめた。「こ、これは毒ではないか」


 広間にいた人々の間に衝撃が走る。みなは信じられないといった表情を浮かべていた。


「ゆるさん、ゆるさんぞ」神様は立ち上がった。「よくも私の恩人であるハンスを毒殺したな。絶対に犯人を見つけ出して裁いてやる。神様の名にかけて!」そう言うと広間にいる人々を見回す。「犯人はこの中にいます!」


 広間は異様な緊張状態に包まれる。そんななか巨乳少女エルゼは、ハンスの死体に人工呼吸と心臓マッサージを繰り返していた。


「神様」猟師コルベスが言った。「どうしてこの中に犯人がいるとわかるんです?」


「私は神様だ。見ただけですべての物事を理解できる」


 少し離れていた場所で見ていた牧師ハインツが、ぼそっとつぶやいた。「だったら最初っから毒が入っているって、わかっていただろうに」


 幼女ザンネが牧師の手を取ると、次いで金持ちのヒルデブラントの手を取り、ブランコ遊びを始めた。


「黙らぬか」ヒルデブラントが抑揚のない声で言った。「神に疑問を呈するとはおこがましい。私にだってわからぬことぐらいあるんだ。神に仕える身なら、それくらい知っとけ。天界での常識だぞ」


 ざわめく人々に対して神様は言った。「静粛に静粛に」そして両手を広げると、目を大きく見開いた。その表情はとても険しい。


 人々がみな押し黙り、沈黙の時が訪れる。エルゼだけが人工呼吸と心臓マッサージを繰り返し、音を立てていた。


「……なるほど。すべての謎は解けた」神様は両手を下げた。


「神様」貧乳少女リーゼが言った。「この中にハンスさんを毒殺した人がいるんですか? 私にはとても信じられません」


「残念だがリーゼよ。この中に犯人はいる。だが犯人を見つける前に」神様は新人の女中に向き直る。「お前さんの正体を明かしてもらおうか」


 新人の女中が神妙な顔つきで神様の前でひざまずいた。「はい、仰せの通りに」その瞬間光り瞬き、村長の妻トゥルーデが姿を現した。


 広間にいる人々から驚きの声が漏れだす。


 トゥルーデを見た村長がおびえだす。「ヨ、ヨリンデ!」


「ヨリンデ?」重役の老人の一人が言った。「いったい何を言っているのだヨハネスは」


「たしかヨリンデというのは」別の重役の老人が言った。「昔おっぱいコンテストで不正行為を行い優勝した少女の名では?」


「たしかにそうだ」さらに別の重役の老人が言った。「不正がバレて村から姿を消した少女だ」


 人々がざわめくなか、巨漢の老婆トリーネは、ピエロ達がこっそりと円卓に近寄っていく姿を見て取った。トリーネも静かに円卓に近づいていく。「あいつら仕掛けるつもりだね」


「静まれ、おっぱい村の住人達よ!」神様が声を大にした。「これから私がすべての真実を話そうではないか。心してよく聞くがよい」


 人々が水を打ったように静まり返った。エルゼだけが人工呼吸と心臓マッサージを繰り返し、音を立て続けていた。


 神様は咳払いをすると真相を語り始める。「すべての始まりは今から十六年前のおっぱい祭りから始まる。その年のおっぱい祭りの数日前、おっぱいコンテストに参加する少女ヨリンデの前に一人の男が現れ、おっぱいコンテストで優勝させてやるから賞金をよこせと脅迫まがいの事をしてきた」


 村長の顔がみるみる青ざめていく。


「無論不正行為など許せぬヨリンデはこれをきっぱりと断った。だがこれを馬鹿にされたと逆恨みしたその男はわざとヨリンデを優勝させ、その後で不正行為をばらしヨリンデを失格にするという行為におよんだ。その結果、ヨリンデは卑怯者の汚名を着せられ、家族もろとも冷たい仕打ちを受けることになる。そんな仕打ちに耐えられなかったヨリンデの両親は心身を病むと、病気で亡くなってしまった」


 トゥルーデの顔に憂いの色が浮かんだ。


「事の重大さに気づいたその男は、ヨリンデにわずかな金を与え村から出て行くよう仕向けた。そしておっぱいコンテストの不正行為の真実を突き止めようとしていた前村長に毒を盛り、自分の悪行が発覚しないよう亡き者にしてしまったのだ」


 広間の人たちから驚きの声があがった。重役達はみなあんぐりと口を開けている。


「その男はその後、村長の座に就いて今日までのうのうと生きてきた。男は今後も自分がおっぱい村の村長として、君臨し続けるものだとうぬぼれていた。だがしかし一つ誤算があった。それは村を出て行ったヨリンデの存在だった」


 人々が村長に不審の目を向けた。村長はがたがたと震えている。


「村を出たヨリンデはその後森に迷い、人食い魔女にさらわれ奴隷にされてしまう。そこで苦渋の生活を長年強いられたものの、隙を見て魔女の家を燃やし逃げ出す事に成功する。その際にヨリンデは魔女から魔法を見よう見まねで覚え、それをもとに一人前の魔女へと成長していく。そしてヨリンデはこの魔法の力を持って、自分に汚名を着せた犯人を捜すべく、おっぱい村に舞い戻った。トゥルーデと名を偽って」


 人々が驚きの視線をトゥルーデに向けた。トゥルーデは顔をふせる。


「おっぱいコンテスト不正行為を行ったのが、村の重役達の誰かであると確信したトゥルーデは、村長と結婚しその座を利用して犯人探しを始めた。だがしかし思うように手がかりは見つからない。そこでトゥルーデはおっぱい祭りを利用して犯人をあぶり出そうと計画する」


 人々が神様の話に聞き入っている間にも、ピエロ達は円卓へとにじりよっていく。トリーネも感づかれないようその後を追った。


「おっぱい祭りを中止せよと脅迫状を送りつけ、要求がのめない場合は村長を殺すと脅した。事態を重く見た村長が重役らを集め、対策を練っているところに乗り込み、ヨリンデの名を出して犯人をあぶり出す予定だった。しかしトゥルーデの当初の計画とは予期せぬ出来事が立て続けに起こり、状況が二転三転してしまうも、どうにか犯人を見つけ出す事に成功する」


 トゥルーデが横目で村長を見た。村長は頭を抱え床を見据えている。


「もうみんなわかっていると思うが、それがこやつ」神様は村長を指差した。「ヨハネスだ」


 広間にいた人々から失望の声があがった。


「ヨハネスは自分が村長の座に居座り続ければ命を狙われてしまうと考え、ハンスを身代わりとして新村長に任命した。その際に不測の事態が起こり職務が遂行できなければ、自分が再び村長の座に返り咲く事を公約させてな。しかし予想外にもすぐに魔女退治が終わったとの報告をうけた。たまたま村を訪れていた神である私によって魔女は葬られたと」


 牧師とヒルデブラントに手をつながれたザンネは、神様の長話を聞いてうとうとしている。


「先に言っておくが私が退治した魔女はヨリンデではなく、ヨリンデを追ってこの村にやってきた人食い魔女。それを知らないヨハネスは魔女ヨリンデが退治されたものだと勘違いした。そして考えた、このままではハンスが村長のままだとな。だから殺してその座に返り咲こうとワインに毒をもったのだ」


 エルゼは人工呼吸と心臓マッサージを繰り返し続けていた。


「ざっとかいつまんで説明したが、これがおっぱい村で起きた事件の真相だ。すべてはこの悪辣な男ヨハネスに端を発する。この男にはしかるべき裁きを受けてもらう」


 村長が泣き顔を上げた。「そ、そんな神様。ワ、ワシは何もしていません。魔女なんて知らないし、ヨリンデという名も知りません。ワシは無実です」


「この期に及んでそんな見え透いた嘘を」トゥルーデが怒りの形相になった。


「だ、だれかワシを助けてくれ!」村長は泣き叫んだ。「褒美ならいくらでもやるぞ!」


「見苦しいぞヨハネス!」神様が怒鳴った。「お前は地獄行きだ!」


 村長が泣き叫び、人々がそれを唖然と見つめるなか、ついにピエロ達が動き出した。ピエロ達は神様に向かって一斉に飛びかかる。


 それを見てトリーネが瞬時に動き出した。目にも留まらぬ速さで神様の前に飛び出すと、向かってくるピエロ達を次々と撃ち落としていく。


 ピエロ達は床にたたき落とされ、広間にいた人々はざわめきだした。


「何事だ、これは!」神様がピエロ達を見て言った。「こいつらは何ものだ?」


「ほほほ、神様お守りしますよ」トリーネは笑っていたが、その顔つきはきびしい。「私から離れないでください。こいつらただものじゃありませんよ。これまであった誰よりも危険な殺気を感じます」


 ピエロ達が不気味に笑いながら、ぞくぞくと立ち上がる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。