第二幕 第三十三場
おっぱい村の広場の舞台裏にあるテントの中では、爆乳女のイルゼビルがイスに腰掛けて、テーブルに置かれている香水が入ったコップのニオイを嗅いでいた。それは魔女ザンネが残したもので、通常はリラックス効果をもたらすが、魔法で変身している者がいればそれを解く効果があるものだった。
イルゼビルはコップを手に取り、それをまわすとニオイを嗅ぐ。「いやされるね」
そこへ女中のグレーテルがやってきた。きびしい表情でイルゼビルを見つめる。
「どうしたんだい。そんな怖い顔しちゃって」イルゼビルはグレーテルに微笑んだ。
「……いえ、何でもありません」
「飛び入り参加の女中さん、あんたもこっちきてニオイを嗅いだらどうだい。気分がよくなるよ」イルゼビルが手招く。
グレーテルは静かにイルゼビルに歩み寄ると、その背後に立った。そしてイルゼビルが着ている背中が大きく露出したドレスを凝視する。ドレスは一枚布で首にかかる紐をうなじでの所で結ぶ事によってその形を保っている。そのためドレスがはだけないよう紐はしっかりと固く結ばれていた。
「あらイルゼビルさん。ドレスの紐がほどけかかっていますよ」グレーテルは嘘をつくとそれがバレぬよう揺さぶりをかける。「まるでどこかで脱いで急いで着たかのように」
しばしの間があった。「あらそうなの? 悪いけど結び直してくれないかしら」
「おやすい御用です」グレーテルはメイド服の右腕の裾から隠し持っていたナイフの刃をのぞかせると、ゆっくりとイルゼビルの首筋へと近づける。
不意にイルゼビルが振り向き、グレーテルの目を見つめる。「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」
グレーテルは右手を握るふりをしてナイフを押し込めると、平静さを装った。「なんでしょうか?」
イルゼビルは右手に持つコップを掲げた。「私この香水気に入っちゃてさ、もらっちゃっていいかな?」
「よいのではないでしょうか。持って行っても誰も気にしないと思いますよ」
「そう、そいつはよかった」イルゼビルはそう言うと胸の谷間に指を入れる。そしてそこからガラスの小瓶を取り出した。「じゃーん」これ見よがしにグレーテルに小瓶を見せつけるとそのふたを開け、コップから香水を移し替える。
「便利な胸ですね」グレーテルはイルゼビルの胸の谷間に視線を向けた。
「まあね」イルゼビルは小瓶の蓋を閉めると、胸の谷間にそれを押し込んだ。小瓶は胸の谷間の奥底にしまわれ、その姿を消してしまう。「これでよし。それじゃあ紐を結んでくれる」
「はい、わかりました」グレーテルはイルゼビルのドレスの紐をほどくと、右手に隠し持っていたナイフで素早く切れ目を入れた。「すぐに結び直します」
「やっぱりいいわ」イルゼビルはそう言うとグレーテルに向き直る。「こういう大事な事は自分でやらなきゃね」グレーテルの手から紐を取り上げ、自分で紐を固く結び直した。「もしあなたが悪意を持ってへんな結び方でもしたら、紐がほどけて大変なことになるからね」
グレーテルは無言でイルゼビルを見つめる。
イルゼビルはイスから立ち上がるとグレーテルと向き合った。「何を企んでいるの」そう言ってグレーテルを押し倒すと、それにかぶさるようにしてのしかかり動きを制する。
「いったい何のまねですかイルゼビル」グレーテルは拘束から逃れようともがいている。
「それはこっちのセリフよ」イルゼビルはグレーテルの耳元でささやいた。そして右手をグレーテルのスカートの中に滑り込ませると、ガーターベルトに装着されていたナイフを取り出した。「あなたが村長の女中と護衛を兼ねているという話は本当だったのね」そう言うとナイフをグレーテルの首筋に当てた。「動かないで。動くと危ないわよ」
グレーテルはもがくのを止め、目つきを険しくさせる。
「見たんでしょ?」イルゼビルがグレーテルに微笑む。「私が教会の奥の部屋で牧師と一緒にいるところをさ」
「さあ、なんのことでしょうか?」
「とぼけないで。誰かにのぞかれていたのは知っていたわ。でもそれがあなただったとはね」
グレーテルはにやりと笑う。「人違いでは?」
「とぼけなくてもいいわよ。知っているんでしょ。このおっぱいコンテストは私の優勝で決まりという事を」
「そこまでして勝ちたいの」
「ええそうよ。私には美しい肉体と使い切れないほどの金がある。だから私がこのおっぱいコンテストで優勝して名誉がほしいの。あなたが欲しいのは名誉? それとも賞金?」
「賞金よ」グレーテルはきっぱりと言い切った。
「なら話は早い。私が優勝するのを黙って見ててくれるのならば、賞金はそっくりそのままあなたにあげるわ。それでいいわよね」
グレーテルは眉根にしわをよせた。「……わかったわ」不承不承といった様子だった。
「そう、ありがとう」イルゼビルはナイフをグレーテルの太ももに戻すと立ち上がり、グレーテルに手を差し伸べる。
グレーテルはその手を取り立ち上がると、メイド服に就いたゴミを払いのける。イルゼビルがグレーテルの後ろにまわり、ゴミを払いのけるのを手伝う。
二人がゴミを払いのけていると、テントに貧乳少女のリーゼと巨乳少女のエルゼが、和気あいあいとおしゃべりを交わしながらやって来た。
リーゼが後ろからエルゼの胸を持ち上げるようにして揺らす。「やっぱりエルゼちゃんのおっぱいすごく大きい。こんなにも揺れちゃう」
「もうリーゼちゃんたらくすぐったいよ」エルゼが声をあげて笑いだす。「今日はご機嫌だね。何かいい事でもあったの?」
「じつはね、神様に会ったの」リーゼは嬉しそうに言った。
「ええーいいな。私も神様に会いたい」エルゼがリーゼに向き直る。「神様に会って……何かしなくちゃいけないような……」そこで首を傾げる。「なんだっけかな?」
「神様に出会ったのですか」そう言ってテントにやって来たのは牧師だった。牧師は幼女ザンネを抱いてニコニコと笑っている。「奇遇ですね。私も神様に出会って奇跡を目の当たりにしましたよ。神様はこのおっぱい祭りを邪魔しようとする悪い魔女を退治してくださいました」
グレーテルが驚いた顔を牧師に向けた。
「あれれ?」エルゼは牧師が抱いているザンネをまじまじと見つめる。「この子は誰?」
「もうエルゼちゃんたら」リーゼが言った。「ザンネちゃんよ。おっぱいコンテストの最初で飛び入り参加したじゃない。忘れちゃったの?」
「そうだっけ?」エルゼは腕を組み思案げに唸る。「そうだったような気もするようなしないような……まあいいか」一人勝手に納得するとザンネに笑いかける。「よろしくねザンネちゃん。ところで見かけない顔だよね。パパとママは誰なの?」
「じつはこの子は」牧師がザンネの頭を撫でた。「神様からいただいた私の子供です」
「ええー!」エルゼが声を張り上げた。「いいな。私も子供欲しい。そうだ、そうだった。私は子供が欲しくて神様を捜しているんだった」
牧師はくすくすと笑う。「残念ですがエルゼ。神様はもうお帰りになりましたよ」
エルゼはその言葉を聞くとがくりと肩を落とし、ため息をついた。「あーあー。残念……」
「おやおや何やらにぎやかだね」そう言って登場したのは巨漢の老婆トリーネだった。トリーネは歩を進めイスに腰掛ける。「よっこらっしょ」そしてグレーテルに顔を向けた。「グレーテルや。狼どもは狩り終わったよ。安心しな」
グレーテルは丁重におじぎをした。「ご苦労様でした。ありがとうございます」
「いったい何の話さ?」イルゼビルがトリーネに訊いた。
「ほほほ、狼どもがこのおっぱい村を襲おうとしてたんでね、やっつけただけさ」
一同が雑談していると一人のピエロがやってくる。「ここにいましたか牧師さん。進行役が不在で大変でしたよ。もう間もなくでおっぱいコンテストの投票です。後は頼みましたよ」
「ご迷惑を掛けてすみません」牧師は謝ると一同に向かって叫ぶ。「みなさんそろいましたね」
「マリィーお嬢様が不在です」グレーテルが言った。「このままでは失格なのでは」
「私ならここよ」そう言って猫耳娘のマリィーがテントに入ってくるなりグレーテルをにらみつける。
「これで全員そろいましたね」牧師が言った。「それではみなさん。準備をしてください」




