第二幕 第七場
村の入り口にたどりついたハンスは、老人を下ろすとその場にへたり込み、苦しげに息を喘がせる。
「さすがに……人をおぶっての……全力疾走は……無茶しすぎたな」
「ありがとうハンス。おかげでおっぱい村につけた」老人はハンスに手を差し出した。「何か礼をしようではないか。ほしいものがあったら言いなさい」
ハンスは老人の手を取り立ち上がった。「お礼なんていいって。気にするなじいさん」額の汗を拭うとあたりを見回す。「それにしても今日はにぎやかだな。なんかあったのか」
「何を言っているのだハンス。今日はおっぱい祭りではないか」
「何だって!」ハンスは驚きに声を張り上げた。「どうりで朝からそうぞうしいと思ったぜ」
「まさか気がつかなかったのか?」
ハンスは頭をかいて笑った。「そうみたいだ」
「気が抜けた男だのう。性根が優しいだけに、誰かに騙されやしないか心配だ」
ハンスは笑顔で親指を立てた。「大丈夫だって。心配するなよじいさん。それよりも今日はおっぱい祭りだ。楽しんでってくれ」
老人も笑顔を見せた。「ああ、そうさせてもらうよハンス」
二人が談笑していると、猟銃を携えた猟師達が猟犬を連れてやってきた。猟師達は張りつめた表情で村の外へと出て行く。あまりの物々しい雰囲気にハンスは猟師の一人を呼び止めた。
「コルベスさん」ハンスは言った。「何かあったんですか?」
猟師コルベスは足を止めた。「何でもない。ただのパトロールさ。それよりもハンス」隣に立つ老人を指し示す。「こちらの老人は見かけない顔だが、お前の知り合いか?」
「知り合いってほどでもないけど、おっぱい村に行きたいっていうから連れてきてやったんだ」
「いつ連れてきたんだ?」
「たった今さ」
コルベスは老人を見つめる。「今来たばかりか。それなら関係ないな」
老人もコルベスを見つめ返す。「どうしたのだ? 私の顔に何かついているかね?」
「いや、何でもない。それよりもご老人、もうおっぱい祭りは始まってる。楽しみたいのなら急いだほうがいい」
「おーいコルベスさん」先を行く猟師の一人が叫んだ。「早く行きましょうよ」
「それじゃあ俺はこれで」コルベスは駆け足で仲間のもとへ行ってしまう。
「じいさん」ハンスが言った。「俺はヤギのところへ戻るよ」
「そうか。世話になったなハンス」
「じゃあな」ハンスは手を振ると村の外へ走り去っていった。




