携帯食料
「え、あ……!? なに、自分で心臓を――」
振り返ったサキュバスの顔から余裕の笑みが消え失せる。驚異的な再生力で破壊された心臓を無理やり創り変えながら、俺はバネのようにしなって床を蹴った。
「がぁああああああッ!!」
「ひっ、速――!?」
迎撃のためにうねる黒い尻尾を、俺はブレード状に変形させた両腕の爪で真っ向から両断した。
「ぎゃあああああああッ!? 私の、私の尻尾がぁあ!」
飛び散る鮮血を頬に受け、脳が歓喜で沸騰する。恐怖に顔を歪ませて必死に這いつくばる少女の細い首を容赦なく掴み上げ、壁へと叩きつけた。
「ガハッ……ゲホッ! おねが、い……助け――」
必死の形相で、仲間の居場所を伝える。自分が助かるために身内を差し出すその醜悪さに口元が歪む。少女の瞳の奥には、仲間の元へ連れて行って俺をハメ殺そうとする透けて見えるような復讐心が混ざっていた。
「……待て、やっぱり予定変更だ」
俺は少女の髪を掴み上げ、その細い首筋に狂暴に牙を突き立てて生温かい肉汁を喉へと流し込んだ。接着面から俺自身の「超再生の因子」をたっぷりと含んだドス黒い血液を、彼女の傷口へと逆流させるように流し込んだ。
「ごふっ……ゲホッ! なに、これ……熱い、身体が、燃えるぅうう!」
少女が悶絶する中、ちぎれたはずの黒い尻尾や首筋の傷が一瞬で元通りに生え変わり、完全に塞がった。マヌケに目を丸くするサキュバスの前に、俺はしゃがみ込んだ。
「お前の体内に、俺の再生能力の種を植え付けてやった。これで、お前は死ねない身体になったわけだ。どんなに切り刻んでも、どんなに美味しく喰らっても一瞬で元通りに再生する。つまり……俺が飽きるまで永遠に、新鮮なまま何度でも喰われ続ける『無限の食料』になったんだよ」
「ひっ……あ、あああ……っ!」
大悪魔の元へ連れて行ってハメ殺すという浅浅しい復讐計画など一瞬で消し飛ぶほどの、本物の底なしの絶望が少女を支配する。
「あはははは! 素晴らしい! これなら道中、小腹が空くたびにお前の肉を一切れずつ千切ってつまみ食いできるな! 最高のディナーの前に、最高の携帯食料の完成だ!」
狂気的な歓喜に震えながら、俺は恐怖と殺意を孕んだ「不死身のサキュバス」を従え、さらなる極上のディナーを求めて、暗闇の奥へと歩き出した。




