変態クズVS変態悪魔
ちょっと攻めすぎたかもしれない。
そこに居たのは紛れもないサキュバスだった。
前世の俺なら下卑た性欲全開の目で見ていたかもしれないが、今の俺にとっては単なる上質なレア肉でしかない。一体どれほど脳がとろける味を秘めているのか、品定めするように眺めるだけで口の中に極上のよだれが溢れてくる。
「おじさーん、もしかして私と戦おうとしてる? やめなよ〜。今なら命だけは助けてあげるよ。まあ、最後の一滴まで絞り尽くすから、結局ショック死しちゃうかもだけどぉ、あははっ!」
小馬鹿にしたようなその顔を見て、ほんの少し親近感が湧いた。なぜならこいつの精神性も、人間をただの道具か玩具としか思っていない俺の同類だからだ。しかし残念ながら、俺にとっちゃお前も他の家畜と同じただの食材だ。最高の悲鳴を上げさせて喰う以外の選択肢はない。
俺はブレード状に変形させた爪で、少女の柔肌の腹を一瞬で引き裂き、中身をぶちまけようとした。しかし、衣服の隙間から伸びた黒い尻尾にパシィンと爪を受け止められた。
「あれれ〜? おじさんもしかして弱い〜? 雑魚なのぉ〜?」
「俺は雑魚ではない。断じておじさんでもない」
今にして思えば、化物の分際でこんな人間のプライドにこだわったガキみたいな反論をしていた自分が最高に恥ずかしい。
「だって……おじさん本当に弱いんだもーん! ざーこ!」
メスガキ特有のウザい笑顔を浮かべた少女の尻尾が、俺の動体視力を置き去りにして胸に突き刺さり、一瞬で心臓をドロドロに貫いた。
が、しかし、俺もあのガルシアに頭を吹っ飛ばされてから確実に成長している。心臓を破壊された絶望の瞬間、俺はあえて口元を歪め、自分の腹を貫いている尻尾の肉に直接狂暴に噛みつき、その肉汁と血をこれでもかと吸い尽くしてやった。
「いっ、タたぁっ……! 汚い口で噛みつくなぁ!」
少女は悲鳴を上げて尻尾を慌てて引っ込め、不快そうに顔を歪めて大きく後ろに下がった。
その間に、俺の胸の風穴は肉飛沫を上げて急激に完全再生していく。
口の中に残った血の余韻に、俺は全身をゾクゾクと震わせた。
この味……! 刺激的な酸味が強いが、その奥にねっとりとした濃厚な旨味がこれでもかと詰まっている。あの最初に喰った極上の女騎士にも全く引けを取らない、超一級品の高級食材だ。
「……うふふ、あはははは! 美味い、美味すぎるぞクソガキ! 最高のディナーだ!」
「ひっ、キモッ……! なにこいつ、心臓潰されて笑ってるとかマジで気持ち悪いおじさんなんだけど! 視界に入るだけで吐き気するし、もうこれで終わらせてあげるよ」
少女は露骨に嫌悪感を剥き出しにしながら、指先をこちらに向けた。
「【チャーム】」
その瞬間、ピンク色の禍々しい魔力が俺の脳髄を直撃し、全身の肉体がピキリと俺の言うことを聞かなくなった。
「あれぇ〜? まだ完全に正気を保ってるのぉ〜? しぶと〜い。これはね、人間の性欲を何百倍にも膨れ上がらせて、私の一挙一動に狂うだけの完全な家畜にする魔法なんだよぉ。性欲のあるオスなら、どんなに強くても絶対に逆らえませーん! それじゃあ気持ち悪いおじさん、まずは床に這いつくばって、従順に〈おすわり〉しなさい」
チャームの強制力により、俺の肉体は屈辱的にも、少女の目の前で犬のように床へお座りさせられた。
「クソガキが、肉の分際で調子に乗るなよ……」
「あはは! 奴隷の雑魚が何吠えてるの〜? ざーこ! ざーこ! おじさんのくせに性欲に負けてお座りさせられてるの、マジで惨めでウケる〜!」
こんのクソアマが。腸が煮えくり返るほどの怒りが湧くが、体がピクリとも動かせないのも事実だ。性欲を増幅させて虜にする魔法……。
そこまで思考が至った瞬間、俺のドス黒い脳内に、この戦いを完全な勝利へと導く最悪の解答が閃いた。勝敗の確率は五分五分、いや、俺のクズさなら確実に行ける。
俺は突如、天井の暗闇を指差して大声を上げた。
「あ! UFO!」
「え!? どこどこ!?」
サキュバスの少女は、おめでたいことにその古典的な嘘に引っかかり、ほんの一瞬だけ、完璧に上を向いて気の緩んだ隙を晒した。
術者の意識が逸れたその刹那の解放を、俺は見逃さない。俺は自由になった右腕を自分の胸へと突き刺し、再生したばかりの自分の心臓を躊躇なく握り潰して破壊した。
「が、はっ……あはははは!」
心臓が消滅し、それを再生するために空腹が始まる。大きな食欲によって脳の機能が完全にシャットダウンされ、チャームの支配が強制的に弾け飛んだ。
少女が騙されたことに気づいてこちらを振り向いた時には、すでに遅い。
俺は死の寸前の狂気の中で、自分を縛るすべての理性を捨て去り、この美味なる獲物を殺すための衝動を、獰猛に解放した。
どーでしたかー!?




