【第三話】クズはゴミクズに進化した。
「大丈夫ですか!?」
チビどもを喰らい尽くした凄惨な現場に、そんな場違いな声が響いた。
声の主は腰に長剣を携えた、いかにも男受けの良さそうなスタイル抜群の美女――女騎士のような風貌の女だった。
その瞬間、俺の頭に極上の名案が浮かんだ。
「実は……魔物に襲われて大怪我をしてしまって。良ければ、馬車に乗せてくれませんか……?」
極力情けない声を出し、哀れな被害者を演じてみせる。
「あぁ、いいとも。近くの町まで送ってやろう」
疑いもしないおめでたい脳みそに、心の中で最高に感謝する。カモが向こうから飛び込んできたわけだ。
俺が馬車に乗り込むと同時に、車輪が回り始めた。密室、美女、二人きり。最高のお膳立てだ。
「お姉さんは格好いい騎士様ですか?」
「いやいや、そんなに偉くないよ。ただの冒険さ」
少し照れくさそうに笑う顔が、ひどく間抜けに見える。俺は獲物を値踏みするように、さらに揺さぶりをかけた。
「近くに仲間はいますか? 助けを呼ばなくても大丈夫ですか?」
「うーん……この近くにはいないかな。私一人だよ」
何も考えずに、警戒心ゼロで答える女。
あぁ、哀れだな。その不用意な一言が、自分の命を刈り取る理由になるっていうのに。
「じゃあ、死ねよ」
俺は本性を現し、獰猛に女へ襲いかかった。まずは動けないように爪で顔面を切り裂こうとしたが、間一髪で避けられる。
「な、何を、する……!?」
「何って、ただの弱肉強食ですよ、お姉さん。強者が弱者を喰らう、当然のルールだろ?」
女は慌てて剣を抜き、ようやく俺を敵と認識したらしい。引きつった表情がたまらない。
「残念だ……短い間だったが、信じていたのに……!」
「いいんですよ、そんなに悲しまなくても。死んだ後は俺の血肉になって、ずーっと俺の中で生き続けられるんだからさぁ!」
異形に変形させた右手を突き出し、女の胸を抉ろうとした。だが、相手は流石に場数を踏んだ冒険者だ。俺の刺突を軽々と見切り、逆に俺の腕を根元から切り落とした。
「ギャァァァァァァッ!?」
肉を裂かれ、骨を断たれる激痛に、思わず獣のような咆哮を上げる。
「今すぐ私の前から消えるなら、命だけは助けてやる。行きなさい!」
命乞いか? それとも最後の情けのつもりか? どちらにせよ、そんな甘っちょろい言葉、今の俺には不快な雑音でしかない。
プライドを傷つけられた激しい憎悪が全身から湧き上がり、切り落とされたはずの腕が、肉飛沫をあげて一瞬で再生していく。
「な、なぜ……腕が……!?」
絶望に目を見開く女。その一瞬の隙を見逃すほど俺は優しくない。
相手の動体視力を置き去りにする速度で背後に回り込み、その無防備な背中から腹へと、再生したばかりの腕を深く突き刺した。
「が、はっ……」
しかし、女もただでは死ななかった。
死に物狂いの力で振り返り、俺の頭めがけて剣を振り下ろした。
確かな手応えと共に剣が俺の頭部にめり込む。だが、俺の異常な再生能力は、その刃ごと肉体に取り込み、傷口を瞬時に塞いでしまった。剣は俺の体の中に消え去り、女は武器すら失った。
「バケ……モン、が……」
怨嗟の言葉を遺し、女はドサリと崩れ落ちて息絶えた。
最高に気分がいい。
俺はまだ温かいこのアマの死体に群がり、貪り食った。
「美味い……! 美味すぎる……!」
前世で食ったどんな高級食材よりも、脳がとろけるほど美味に感じられる。女の肉を咀嚼しているその時、頭の中に無機質な声が響き渡った。
《称号を獲得:『人を喰らう者』》
ん? 何の声だ。
だが、そんなことどうでもいい。今は、目の前にある極上の「食材」に完全に目を奪われ、俺はただひたすら、この至福の時間を貪り続けた。
――数分後。
綺麗さっぱり平らげた後、俺はふと我に返り、激しい後悔に襲われた。
「クソッ……失敗した……!」
なんで全部食っちまったんだ。
生かしておけば、食う前にあんなことやこんなこと、死ぬほど陵辱して弄んでから、最後に美味しくいただくこともできたはずなのに……!
あまりの美味さに理性を失い、一番の娯楽を台無しにしてしまった。
次はもっと、なぶり殺すプロセスを楽しんでから喰ってやる。
俺は口元についた血を拭い、次の獲物を求めて歩き出した。
次は午後すぎてから出すよー




