頭首工
町のはずれには川の水を制御するための頭首工がある。
一見すると小さなダムのような構造で、近くに行くと水の流れる音が思ったよりも激しい。
雨が多く降った時などは水の流量も増えるため、濁った水が上流から枝や木を運んでくることもある。
台風の翌日、朝から頭首工から溢れる水が増量するのを見物に行ったことがある。
そしてそこで、ある音を聴いた。
トン
それは頭首工へ流れついた、絡み合った木の枝などの集合体のあたりから聴こえてくる。
トン、トン
濁流の勢いに合わせて、一定の間隔で聴こえるそれは、流れ着いた枝や木で出来た中州に、土嚢袋のような物体がぶつかる音であった。
トン、トン、トン
大きな木の枝が向かってきたときに、周囲の流れが変わったらしい。
その衝撃で土嚢袋はひっくり返り、反対側を露出した。
膨れ上がった土気色の顔は、つい先日顔を合わせたばかりの友人であった。
台風の日に頭首工へ川の勢いを行かないかと誘ってきた友人は、そのまま台風が過ぎ去るまでここにいたらしい。
トン、トン
水の流れに押されて友人の体の向きは再び変わり、こちらを向くような体制になった。
黒目の白濁した半開きの目は、何の感情もなくこちらを見ていた。
それから何年も経った晩。台風が来た。
壁や天井に雨粒の叩きつけられる音が鳴り響く。
そうした晩には決まって、雨音に混じった異質な音が響いてくる。
トン
トン
それはあの、土嚢袋のようになった友人が、壁や枝にぶつかる音に酷似している。




