留守番
トン、トン、トン、トン
その日、他の家族は留守であり、自分一人しかいなかった。
階段を登って来る音がしたということは、日帰り旅行から帰ってきた母か、帰省予定の兄弟のはずである。
トン
階段をゆっくりと登る音。
それには緩急がついているのか、テンポがおぼつかない。
トン、トン
トン
トン、トン、トン
ふと気がつけば、それは階段の段数を大幅に超えていた。
往復しているのかとも思ったが、そもそも何をしているのか。
携帯電話を手に取り、兄弟へと連絡をする。
「帰ってきた?」
送ったメッセージには既読はつかず、部屋の外からも通知音は聞こえない。
トン、トン、トン、トン、ト…………
音は階段を登り終えた。
そして部屋の前、廊下を行ったり来たりしはじめた。
トン、トン、トン、トン
果たして足音なのかとも思ったが、階段のときに比べて僅かに衣擦れのような音がしているため、どうやら足音には違いない。
ひょっとしたら、留守を狙った泥棒の類かもしれないとも思えて来る。
トン、
トン、
トン、
手近にあった武器になりそうなものを手に取り、意を決して戸を開け、声を上げる。
「誰?」
しかしその瞬間、家の中からは生き物の気配など何も感じないほどの静寂に包まれた。
突然聴覚が失われたかのような静けさに、何か恐怖のようなものを感じた息子は家を飛び出した。
そして日帰り旅行から帰ってくる母を、少し遠めの駅まで迎えに行った。
兄弟から連絡があったのは、それから更に一時間以上も経ってからだった。
その家では時々こうしたことが起こるが、息子はこの時はじめてだったため、酷く動揺したという。




