危険物は持ち込み禁止!
※ゆるふわな気持ちでお読みください。
通しで踊ったダンスの問題点を先生に指摘して貰い、その部分をおさらいしていたら、アイリーンお姉さまがやって来た。
授与式が近づいてきたから化粧品を取り扱う商会を呼んだそうで、本日のダンスレッスンは終了になった。
授与式のためにどんだけ~って感じだけど、これも貴族の義務なのである。
貴族がこうやって買い物をすることで経済が大きく回るので、普段あんまり大きな買い物とかしない私はやや放棄気味とも言え……、いや、商品開発なんかで雇用を増やしてるのでセーフだセーフ。
商会を待たせている別室に向かったんだけど、女性の化粧品選びなんて楽しくないだろうに、レオンもついてきた。
別室に着くと、すでに様々な化粧品がテーブルに所狭しと、だけど整然と並べられていた。
商人さんの挨拶を受けてからソファに座り、化粧品の説明を聞いていく。
正直、あんまりよくわかってない。
「特にですね、こちらが最近西方の国から入ってきた白粉なのですが、伸びもつきもよく、とても綺麗に白くなるので、評判も良いのですよ」
商人のおっちゃんの流れるような話を聞いてると、あんまり興味がないのも相まって、ちょっと眠くなってくる。
「成分に鉛白というものが使われているとのことで、それがこの美しい白さを出しているそうなのです」
へー、えんぱく……。
……えんぱく…………?
……………………………………鉛白?!
「だだだだめー! それだめ! 鉛白だめ! 鉛! 鉛中毒! 死ぬヤツ!」
覚えてて良かった!
前世で有名な男装の麗人の劇団にハマってた友人が持ってたブロマイドを見て、中世ってドレス大変だなーって言ったら色々語られたことがある。
その時に鉛白とか水銀を使った白粉のことも聞いて、まじ怖……ってなったの思い出したのよ!
今ここで思い出さなかったら、お母さまやアイリーンお姉さまが使って、危うく死んじゃうところだったよ!
死ななくても、色々な障害や後遺症が出て大変なことになるところだった!
「死ぬ、ですか……?」
商人さんが困った顔で、急に大声を出した私を見つめてくる。
「信じられないかも知れないけど信じて! それ売っちゃだめなヤツなの! 死ななくても病気になっちゃうヤツなの!」
「カレンちゃん、落ち着いて。大丈夫よ、私達が貴方を信じなかったことなんてないでしょう?」
アイリーンお姉さまが両手で私の顔を包み込んで、自分の方に向かせて微笑んだ。
アイリーンお姉さまの笑顔がとっても穏やかで、その笑顔を見ていると不思議と心が落ち着いてきた。
それからお茶を勧められたので、一口飲む。
温かいお茶がお腹に落ちていって、そこから温かさがじんわり広がっていくようだった。
「驚かせてごめんなさいね。この子は天上に座す神々から、多くの知識を授けられていてね、今回もその中の一つだと思うの。申し訳ないのだけれど、その白粉は下げてくださる?」
頬に手を添えて、商人さんににっこりと美しく微笑むアイリーンお姉さまこそが、神々から祝福を授かりし者なのでは?
「王宮の方でも至急その白粉について調べてみよう。そなたたちもその白粉は当面販売しないでくれ。カレンが言うのだから間違いはないと思うが、これが本当なら大問題になる。出来れば、急ぎ返金回収した方が良い。知り合いの商会にも声をかけた方が良いだろう。全額は難しいが、国から補助金が出せないか検討してみよう」
王宮や国って言葉が出てきたから、商人さんは顔を青くして頭を縦にぶんぶん振って、急いでその白粉を片付けた。
さすがレオン、持つべきものは王子サマの友達である。
「ありがとう、お姉さま。ありがとう、神様仏様レオンハルト第三王子殿下様」
「その変な言い回し知らないけど、敬称は重ねちゃ駄目だよ?」
「わかってるよぅ」
アイリーンお姉さまとレオンにくすくす笑われながら、頭を撫でられたのだった。
後日、西の国で鉛白入りの白粉を使っていた人々が、シミや肌荒れから神経障害まで、何らかの症状が出ているということが明らかになり、我が国では販売・使用禁止のお触れが出たのだった。
カレン「覚えてて良かった! 思い出せて良かった……!」
アイリーン「あらあら、カレンちゃん泣かないで?」
レオン「全く、恐ろしいものが輸入されていたものだ」
アイリーン「本当に。でも、禁止されていても隠し持って使う人は出そうだわ。それだけ肌の白さは美しさの象徴ですもの」
レオン「難儀だなぁ……」
カレン「良かった……! 良かった……!」




