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魔法少女が表なら、忍びは裏。——国に見捨てられた姉妹は、偽りの聖女を影から狩る  作者: 毛布 繰丸
エピソード3 家族と一緒に事前準備

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影たちは帰国し最後の拠点を探す

 午前三時。


 海岸から数百メートル離れた暗い沖合に、一つの影が浮かんでいた。


 海岸へ近づいたところで、エンジンを静かに切る。

 あとはオールだけを頼りに、水面を滑らせるようにゆっくりと岸へ向かう。

 規則正しい波の音だけが、夜の闇の中に小さく響いていた。


 オールを握りながら、ナタリーが鬱陶しそうにぶつぶつと文句をこぼす。


「なんで指揮官が、わざわざこんなボートを漕がなきゃいけない……」

「ナタリー、文句を言わないで手を動かして!」


 ゴムボートには、ユキ、ナタリー、アカネ、ノヴァ、ユカリの五人が乗っている。

 すべての決着をつけるため、私たちは再びこの日本へ帰ってきたのだ。


 私とナタリーは、並んでオールを握りしめ、陸を目指した。


「……それにしても、指揮官自ら船を漕ぐとはな」

「ねえ、まだ言ってるの?」

「ユカリはデスクワークだから無理でも、アカネと交代するのは――」


「寝てるな」

「……そうね」


 ふと振り返ると、アカネはボートの端で膝を抱えたまま、静かに目を閉じていた。

 長旅の疲労もあったのだろう。思わず、小さくため息を漏らす。


 最後の戦いを前にして、再び踏み入れた故郷の地。

 チームワークはばっちりだ。


 ***


(ごめんなさい……!)


 悪いとは思ったが、エンジン付きのゴムボートはビニールに包んで、近くの釣具店の前にそっと置いてきた。


 新品のエンジンの価値を分かって、どうか許してくれないだろうか。

 そんな虫のいい期待を内心で抱きながら、私たちは足早にその場を離れる。


 その日は人目を避けて少し歩き、フロントに人影がない、いかがわしい雰囲気の古いホテルに五人で身を寄せた。


 まずは、仮拠点でもいいから腰を落ち着ける場所を作らなければならない。

 私はユカリさんと共に古びた地図を睨みつけ、ナタリーの率直な意見も聞きながら候補を絞っていく。


 三人で話し合った結果、今後の情報収集には最低でも一ヶ月は必要だと判断した。

 そのため、ユカリさんの名前で民泊を二ヶ月間契約することにした。


 仮にユカリさんの存在が田中に知られていたとしても、彼女は公の場で指名手配されているわけではない。

 民泊のオーナーから不審に思われて通報される可能性は低いと、私たちは冷静に判断した。


「はあ……金を積んでもまともにホテルに泊まれないなんて、日本は本当に面倒だな」


 ナタリーは愚痴を吐きながらも、次々と現実的な改善案を出してくれる。

 こういう時、彼女のサバサバとした性格はとても頼りになる。


 ふと横目でアカネさんとノヴァの様子を伺うと、初めて入る部屋の探索にも飽きたのか、お風呂に二人で入り、そのままベッドに潜り込んで、ぐっすりと眠っていた。


「呑気なものだな」

「あら、可愛いじゃない」


 相変わらずユカリさんは、優しい眼差しでそんな二人を見守っている。


「私たちも、休みましょう」


 こうして、日本帰国の長い初日は静かに終わりを告げた。


 ***


 翌朝。窓を開けると、太陽をすっぽり隠すような灰色の空が広がっていた。


 今日は拠点の契約と車を手に入れることを最優先にする。

 そして、これからの戦いに必要な物資の洗い出しも急がなければならない。


(最初が肝心だわ。今日は一日、忙しくなるわよ)


 私は拳をぎゅっと握りしめて振り返る。すると、ちょうどユカリさんと目が合った。

 ユカリさんは心強い笑みを浮かべ、コクンと頷き返して――。


「さあ、まずは可愛い服を買いに行くわよ!」


 ユカリさんの鶴の一声で、最初の目的地が決まった。

 私たちはタクシーを呼び、観光客の多い繁華街へと向かう。


「ノヴァ……これとこれ、どっちの色がいい?」

「絶対こっちが似合う!」

「なあユカリ、予算はいくらまでだっけ!?」

「キャー、これ可愛い! ノヴァちゃん、ちょっとこれ着てみてよ!」


 私は無難にフード付きのジャンパーと、変装にも使えるお洒落なカラーグラスを購入し、皆の買い物が終わるのをベンチで静かに待っていた。


 適当なファミレスのボックス席に滑り込む。

 アカネさんは念願のお子様ランチに小さな旗を立て、ノヴァと並んで幸せそうにスプーンを動かしている。


「午後からは別行動ね。ユカリさんは拠点と車の確保を頼めるかしら? アカネさんは念のためユカリさんに付いていてね。私たち三人は近くのカラオケで待機しながら、必要物資の洗い出しと今後の計画を詰めるわ」


「それでいいかしら?」と皆を見回すと、それぞれが小さく、しかし力強く頷いた。


 その後は予定通りに過ごし、夜のとばりが降りる頃には、昨日泊まったホテルとは別の、フロントに人がいないホテルで合流を果たしていた。


「なんとか明後日から拠点は借りられるわ。車はオークションで二台、落札しておいたけど、ナンバーは偽造するしかないわね」


 ユカリさんは相変わらず仕事が早くて、とても助かっている。


 それからはノヴァとナタリーのために、道中でたまの観光を挟みながら慎重に移動を重ね、予定通り二日後には新しい拠点へと辿り着いた。


 古びたシャッターの隙間から漏れる冷たい空気を頬に感じながら、私はふうっと小さく息を吐き出す。


 ここから、私たちの最後のミッションが始まる。

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