三つのタスクと、単独潜入の覚悟
いつしか『指揮官』を名乗るようになったナタリーに呆気にとられる私たちを見て、場の空気を変えるようにユカリさんがポンと手を叩いて言った。
「とっ、とにかく明日以降に実行する、アメリカでの最後のお仕事の話をしましょ」
ユカリさんはノートパソコンをテーブルに開き、私たちに画面を見せた。
私たちは狸のロゴを掲げた環境保護団体の情報が記載されたHPの画像を見ながら議論した。リベリアでノヴァを見殺しにし、裏で密猟品の密輸や悪逆非道を尽くしている、あの腐りきった組織だ。
「情報は一通り集まったわ。 でも、ユキちゃん。 これだけ規模の大きい組織だと、末端の幹部を全員暗殺したとしても、世間はヒーローが悲しい事故で亡くなったと報道するだけで、幹部が入れ替わって元に戻るだけよ。 どうやって解体まで追い込むの?」
ユカリさんのもっともな疑問に、私は考えていた意見を言う。
「『法人格の即時剥奪』『民事没収』『ロゴの永久使用禁止』。 この三つのタスクを全てクリアするつもりよ。まず『法人格の即時剥奪』だけど、これはユカリさんに任せるわ。政府に忖度しない独立系のジャーナリストや、巨大資本に属さない調査報道メディアの窓口へ、私たちが手に入れる裏帳簿を渡してあげて」
「ええ、任せて。 じゃあ私は秘匿性の高い匿名リークサイトを使って、あらかじめそういったメディアの幹部や、国税当局の通報窓口に『近日中に大規模な非営利団体の不正データを送るから、動ける体制を作っておいて』とリーク予告を進めておくわ」
私はコクリと頷き、言葉を続けた。
「ありがとう。 ……そして『民事没収』は絶対条件ね」
「リベリアの任務で知った通り、連中は密猟者を捕獲して、その売買ルートを奪って利用しているわ。 その証拠を手に入れてマフィア対策法などを適用すれば、きっと資産を凍結させられる。 これを実行するには、資産を移動される前に最初の報道のタイミングで一気に決める必要があるの」
「分かったわ。 後は、忍び込んだ先でデータ抽出をするための端末準備ね」
ユカリさんはキーボードを叩きながら、ニヤリと笑った。
「サーバーにUSBを差し込んでコピーしつつ、手元の画面に進捗率を表示する端末を用意するわ。 撤収時にサーバーに仕掛ける時限式のマルウェアもセットでね」
(……過去の忍びの任務でも使ったことがある、ユカリさん特製のハッキングツール。 あれがあれば確実だ)
私は力強く頷き、最後のタスクを口にした。
「『ロゴの永久使用禁止』については、彼らがどれだけ非道なことをしていたかを通信業者やネット上に流せれば、自然と非難の声があがるはずよ。 保護活動と偽って、独自の軍事組織を持っているところを公表しましょう」
私は真っ直ぐにユカリさん、アカネさん、そしてナタリーの目を見た。
証拠を掴み、マルウェアを仕掛けるためには、彼らの心臓部に物理的に入り込むしかない。
「だから明日から、私が泊まり込みで本部に潜入するわ」
私の覚悟を決めた目を見て、部屋に沈黙が落ちた。誰も何も言えなかった。
これがどれほど危険な任務か、全員が理解しているからだ。
ただ、ナタリーだけは納得した顔をして、私の肩をバンッと力強く叩いた。
「よし! トラブルがあれば私が指揮を執るからな!」
その言葉は、少し空気を読んでいないような強引さがあったが、不思議と私の強張っていた心を軽くしてくれた。
(……ええ。よろしく頼むわ、指揮官殿)
私は小さく微笑んだ。
日本へ帰る前の、最後のウォーミングアップであり、ノヴァの両親への弔い合戦。
私たちが歩む影の道に、新たな、そして少し騒がしい仲間が加わった夜だった。
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