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魔法少女が表なら、忍びは裏。——国に見捨てられた姉妹は、偽りの聖女を影から狩る  作者: 毛布 繰丸
影の反逆——復讐の誓い

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三年後の夜——影を往く姉妹

カチリ、と微かな金属音が深夜の静寂に響いた。

旧式のダイヤル錠を指先の感覚だけで読み取り、ユキは分厚い金庫の扉を静かに開く。中には温度管理された透明なケースが収められており、その中には青々とした一本の苗が鎮座していた。


(あった……。これでミッションコンプリートね)


依頼主は、ある地方のしがない農家。彼らが心血を注いで品種改良した「奇跡の苗」を、悪徳農業法人が暴力同然に奪っていったのだという。

ケースを慎重に専用のバッグへ収め、ユキは暗闇の中で小さく息を吐いた。


——その瞬間。


「誰だ!」

背後から鋭い怒声と共に、強烈な懐中電灯の光がユキを真っ直ぐに照らし出した。

見回りの男が二人。足音を完全に殺していたはずだが、タイミングが悪かった。

だが、ユキの動きに焦りはない。

光を浴びた直後、彼女は羽織っていた漆黒のマントを男たちの顔面めがけて勢いよく放り投げた。


「うわっ、なんだこれ!」

男たちの視界が黒い布で完全に塞がれた一瞬の隙。

ユキは持ち前の脚力を爆発させ、音もなく床を蹴って壁を駆け上がり、男たちの頭上を飛び越えて背後へと回り込んだ。

着地と同時に、後ろにいた男の背中へ張り付くように羽交い絞めにする。

そして、あらかじめ用意していたハンカチを、男の鼻と口に強く押し当てた。ハンカチには、古くから忍びの里に伝わる睡蓮の毒を改良した特製の睡眠薬『白睡はくすい』がたっぷりと染み込んでいる。


「むぐっ……!?」

男は数秒だけもがいたが、即効性の薬によって瞬時に体の力が抜け落ち、その場に崩れ落ちた。


「おい、どうし——」

異変に気付いた前方の男が、マントを振り払いながら後ろを振り返る。

だが、彼が仲間を助ける暇はなかった。

男の足元に伸びる影——その暗がりの中から、黒装束を纏った小柄な影が、バネのように弾け飛んだ。


「はい、おやすみっ!」

元気な声と共に、妹のサヤがつま先を鋭く跳ね上げる。

芸術的なまでの弧を描いたサマーソルトキックが、男の顎を真下から的確に捉えた。カクン、と脳を揺らされた男は白目を剥き、一言も発することなくバタリと倒れ伏す。

静寂が戻った部屋の中で、サヤは着地を決めると、呆れたようにため息をついた。


「お姉ちゃ〜ん。忍びが姿を見られたらどうすんのよ〜。素人じゃないんだからさ」

「……姿は見られてない。顔を認識される前にマントを投げたし、強い光で目が眩んでいたはずだから」


ムッとして言い張るユキに、サヤは「はいはい、そういうことにしておきまーす」とからかうように笑った。

三年という月日は、泣き虫だった妹を、いとも簡単に巨漢を気絶させる凄腕の忍びへと変えていた。


それから三十分後。

二人は雑居ビルの地下にある、隠し扉の奥の部屋——現在のアジトへと帰還していた。


「おっかえりなさーい! ユキちゃん、サヤちゃん!」

部屋に入るなり、三台の大型モニターに囲まれたキャスター付きの椅子が、くるりと回転した。

座っていたのは、ボサボサの髪にジャージ姿の女性、ユカリ(二十二歳)。元引きこもりにして、異様なまでのハッキング技術と情報収集能力を持つ、姉妹の専属オペレーターだ。


「お疲れ様! 依頼主の農家さんから、無事に苗を受け取ったって連絡があったわよ。……ふふふ、報酬の振り込みも今確認できたわ。あーっ、お金が増える数字を見るのって最高!」

えへへとだらしなく笑いながら、ユカリは温かいココアを二つのマグカップに注いで手渡してくれた。お金には意地汚いところがあるが、危険な橋を渡る姉妹をいつも優しく労ってくれる、頼れる味方だ。


「ありがとう、ユカリさん。今回もルート確保、助かったわ」

「あ〜疲れた〜」

サヤは甘いココアを一気に飲み干すと、そのままアジトのソファにだらんと寝転がった。

「シャワー浴びたらアイス食べよ〜。お姉ちゃん、冷凍庫にチョコミント残ってたよね?」

「はいはい。ちゃんと汗流してからにしてよね」


日常の他愛ないやり取りを交わしながら、ユキはそっと自分の手を見た。

あの日から三年。

私たち姉妹は、政府に「忍び」としての開業届を出していない。両親を裏切り、見殺しにして事実を隠蔽した政府など、到底信用できなかったからだ。

だから今は、ユカリの力を借りて闇サイトや口コミだけで細々と依頼を受け、完全なフリーランスとして裏社会を生き抜いている。


——すべては、力を蓄え、情報を集めるため。


(お父さん、お母さん)

ユカリのモニターの一つには、魔法少女が今日も華々しく実績をあげたというニュースが映し出されている。

あれから私たちは、裏の仕事をこなしながら、ずっとあの事件の真実を調べ続けていた。

あの夜、両親に何があったのか。政府はどこまで噛んでいたのか。そして何故、あの悲劇が魔法少女の手柄として報道されたのか。私たちは、その真実を暴くためのピースを探し求めているのだ。


「……待ってて。必ず、あいつらに報いを受けさせるから」

ユキは誰にも聞こえない声で呟くと、マグカップの温もりとは裏腹な冷たい決意を胸の奥にしまい込み、妹の待つシャワールームへと向かった。

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