引き裂かれた勝利、明かされる真実、そして別れ(中編)
「サヤッ! アカネさん!!」
私は激痛を忘れて二人の元へ駆け寄り、血まみれの体を抱き起こした。
サヤの黒装束は切り裂かれ、アカネの美しい銀髪は赤黒く染まっている。
意識は完全に飛んでおり、呼びかけにも応じない。
だが、首筋に指を当てると、虫の息ではあるが辛うじて脈打っていることだけは確認できた。
「冥途の土産だ。少し昔話をしてやろう」
私が絶望に打ちひしがれている頭上で、田中が滑稽な喜劇を語るように口を開いた。
「元々、俺は何の目標もなく生きているだけの警察官だった。だが、徳頭に見いだされ、忍びの技を授けられた。国のために生きる……それは俺にとって、初めてできた崇高な目標だった」
田中は、死んだ徳頭を見下ろしながら顔を歪めた。
「だが、徳頭の心はとうに壊れていた。自分の家族を使い潰した国を恨みながらも、国と同じように俺を道具として使い潰そうと利用する。その結果が、影武者となるように整形させられたこの顔だ!」
田中の声に、抑えきれない嫌悪感が混じる。
「俺は国のため、潰れた里のため、逃げた忍びの仲間のためにと大義を掲げるくせに、過去の情に縛られているあの優柔不断な徳頭が大嫌いだった。あんな老いぼれが国のトップに立ち続ければ、いずれ世が乱れると確信していた」
私は黙って田中の話の続きを聞いた。
「ある日、そんな俺に最高のチャンスが訪れた。徳頭の忍び仲間であるタツノリに子供ができたことだ。そう……お前たち姉妹だ」
田中の目が、三日月の形に残酷に歪んだ。
「俺はタツノリに吹き込むことにした。『既に狂っている徳頭がこのまま国のトップに立てば、いずれこの国は破滅する。お前の愛する娘たちの未来もないぞ』とな」
「――ッ!」
「そして、タツノリが説得のために徳頭と直接接触するのを、徹底的に防ぎ続けた。……そうするとどうだ? 予定通りに疑心暗鬼に陥ったタツノリと徳頭は仲違いし、最後はお前たち子供まで巻き込んで自滅してくれたというわけだ!」
田中は両手を広げ、夜空に向かって狂ったように高笑いを上げた。
「お前たちのおかげで、邪魔物は全て死に、俺の計画が遂に完成を迎えた! 本当にありがとう、哀れな忍びどもよ!」
悔しさと、怒りと、絶望。
両親は、徳頭に裏切られただけではなかった。この田中の歪んだ野心の盤上で踊らされ、互いの情を利用されて殺し合わされたのだ。
ギリッと、口の中に血の味が広がるほど唇を噛み締め、私は田中を力一杯睨みつけた。
「それじゃあ……あなたが、すべての原因ってことじゃないッ!!」
怒りに震える私を見下ろし、田中――新しき徳頭サトミチは、最高に邪悪な笑みを浮かべて頷いた。
「そうだ! 俺がすべての元凶だ。……ついでに言うと、この『魔法少女』というシステムそのものを立案し、完成させたのも俺だ!」
田中の言葉に、私は息を呑んだ。
「何故『魔法少女』が『少女』にしか発現しないとされているか、理由は知っているか? 魔法少女が大人になると、メディアに一切姿を見せなくなる理由は?」
田中は余裕の笑みを浮かべ、突如として私に謎かけをしてきた。
私は何も答えられない。
一般には「魔法少女は大人になると魔力を失う」と言われている。
しかし、今私の目の前には、サヤたちを圧倒した『大人の魔女』が四人も立っているのだ。常識が、すでに崩壊していた。
「魔法少女は大人になると魔力を失い、かつて倒した悪党からの復讐を避けるために政府の極秘保護を受けることになる……。国民はそう信じている」
田中は自慢するような、滑稽な芝居がかった声で答えを告げた。
「だが、それは真っ赤な嘘だ。魔力は大人になっても失われない。だが魔法少女は大人になると……政府により自我を奪われ、逆らえない『魔女』になるんだよ!」
「なっ……」
「世の中の魔法が使える特異な女性を取りこぼさない様に、十代のうちに『魔法少女』としてメディアで大々的に祭り上げ、チヤホヤして囲い込む。そして大人になったら、自我を破壊し、逆らえない最強の兵器として飼い慣らす。……どうだ? 国防と世論操作を完璧に兼ね備えた、素晴らしいシステムだろう?」
声高に笑い声を上げる田中。
国を守る英雄であるはずの魔法少女たちの人生を、幼い頃から死ぬまでシステムの中に閉じ込め、使い潰す。
「なんて、邪悪な……」
私は吐き気を催し、背筋に氷をねじ込まれたような悪寒に襲われた。これが、国家という名の化け物の正体。
「さて、少し喋りすぎたが、そろそろお別れだ。オイ!」
田中が顎でしゃくると、四人の魔女たちが無機質な動きで前へと進み出た。
「俺の計画成功のお礼に、お前たちを両親の元に送ってやろう。……とびきり苦しませてな!」
田中の命令が下された瞬間、ゴゴゴゴッ! と屋上が激しく揺れた。
『鉄の魔女』が両手を地面につくと、私とサヤ、アカネの周囲のコンクリートを突き破り、厚さ三十センチはあろうかという分厚い鋼鉄の壁が四方を完全に囲い込んだ。
上部だけが開いた、巨大な鉄の檻。満身創痍で左手も使えない私に、意識のない二人を抱えてこの壁を飛び越えることは絶対に不可能だった。
続いて、『水の魔女』が上空へ手をかざす。
ドドドドドッ!!
鉄の檻の上部から、少しずつ水が流し込まれ始めた。
「――ッ!」
冷たい水が、あっという間に足首まで水位が上がった。
(溺死……人間が一番苦しいと言われる死に方の一つで、私たちを殺す気だ!)




