引き裂かれた勝利、明かされる真実、そして別れ(前編)
吹き荒れる夜風が、ヘリコプターの爆音と共に屋上を乱舞している。
私は荒い息を吐きながら、血の海に沈んでピクリとも動かなくなった徳頭サトミチの死体を見下ろしていた。
終わった。
私たちの両親を罠に嵌め、魔法少女というシステムを利用して国を裏から食い物にしてきた巨悪。
その命を、遂にこの手で断ち切ったのだ。
左手に空いた大穴からは相変わらず血が滴り、両肩の傷が神経を焼き切るような痛みを放っている。
立っているだけで視界が白く明滅するほどの極限状態だったが、復讐を成し遂げたという事実が、かろうじて私の両膝を支えていた。
(お父さん……お母さん……)
虚空に向かって祈りを捧げた、その時だった。
ギィィィッ……。
重厚な鉄扉が擦れる音が、屋上の風音に混じって聞こえた。
非常階段へと続く扉が開いたのだ。
(サヤ! アカネさん!)
私は痛む体を引きずり、期待に胸を膨らませて振り返った。
下の階で魔女たちと戦っていた二人が、約束通り勝って私を追ってきてくれたのだと信じて。
だが。
開け放たれた扉の暗がりから、ゆっくりと靴音を響かせて現れたのは、サヤでもアカネでもなかった。
「……まぁ、所詮忍びなんてこんなものか」
一切の感情を交えない、冷酷で機械的な声。
そこに立っていたのは、黒いスーツに身を包んだ公安の男――田中ヒトシだった。
彼は屋上の中央に横たわる徳頭の死体に視線を送ると、「負けたか」とひどくつまらなそうに呟いた。
「田中……っ! どうしてあんたがここに……サヤたちはどうしたの!」
私は残された右手にクナイを握り直し、全身の毛を逆立てて威嚇した。だが、田中は私に構えるそぶりすら見せず、自らの顔に手を当てた。
ベリッ。
粘着物が剥がれるような、ひどく生々しい音がした。
「……え?」
田中の顔面の皮膚が、まるでゴムのマスクのように剥がれ落ちたのだ。
その下から現れた素顔を見て、私の心臓がヒュッと音を立てて凍りついた。
そこにいたのは、紛れもない『徳頭サトミチ』の顔だったのだ。
私が今しがた殺し、足元で血の海に沈んでいる男と全く同じ、皺の数まで寸分違わぬ顔。
「な、なに……これ……」
驚愕して目を見開き、カタカタと震える私に向かって、徳頭の顔をした田中は薄気味悪い笑みを浮かべた。
「何を驚く。オリジナル(徳頭)は異常なほど用心深い男だからな。いざという時のための影武者くらい、当然用意するだろう?」
田中は足元の死体を潰れた蛙を見るように見下ろした。
「まぁ、死んだこの肉塊がオリジナルで、俺が影武者だがな」
「そんな……!」
絶望で視界がぐらりと揺れた。私が命を懸けて、左手を犠牲にしてまで殺したこの男は……本物の黒幕でありながら、もう一人の自分を造り出していたというのか。
「予定が少し早まったが、好都合だ。……俺はいずれ、この老いぼれたオリジナルを始末し、俺自身が『徳頭サトミチ』として人生を乗っ取る予定だったからな」
田中の口調は、先ほどの死んだ徳頭の傲慢さとは違う、底なしの悪意と野心に満ちていた。
「サヤたちは……妹はどこッ!」
私が喉を裂くように叫ぶと、田中は後ろの非常階段の暗がりへ視線を送った。
ズラリと、あの四人の『魔女』たちが姿を現した。
そして彼女たちは、抱えていた荷物をゴミでも捨てるかのように、私の足元へと無造作に投げ捨てた。
ボサッ。
鈍い音を立てて床に転がったのは、全身を血に染め、ピクリとも動かないサヤとアカネさんだった。




