第九十八話 賑やかな帰り道と迷子の荷車
──天才錬金術師は常識を知らない
──雷鳴の森を抜けた翌日。
青く澄んだ空。
柔らかな風。
危険な魔物の気配もなく、街道には穏やかな時間が流れていた。
アルマたちはソリティア共和国へ戻るため、ゆっくりと街道を歩いていた。
「わぁ~♪」
アルマは道端の花を見つけるたびに目を輝かせていた。
「かわいい!」
「この花、薬草になるかな?」
「こっちの草も使えそう!」
ルナが苦笑する。
「お姉ちゃん、また採集してる……」
シエルも笑った。
「いつものことだね」
フィーネは肩をすくめる。
「まったく、寄り道ばかりじゃ」
「帰るだけで何日かかることやら」
そんな会話をしながら進んでいると。
グルル♪
蒼い毛並みのギガルドがアルマの横を歩いていた。
今ではすっかり一行の一員である。
しかも。
モフッ。
アルマはその背中に乗っていた。
「高い~!」
「すごい~!」
ルナが呆れる。
「ギガルドさんも嫌がらないね」
グル♪
尻尾を振る。
むしろ嬉しそうだった。
すると。
「……ミルも」
ぷに。
ミルがギガルドの頭の上に乗った。
「……特等席」
シエルが笑う。
「ミルちゃん、そこ気に入ったんだ」
「……うん」
「……ふかふか」
その光景を見たエリシアは、少しだけ笑みを浮かべた。
「完全に家族ね」
フィーネが頷く。
「うむ」
「変な家族じゃがの」
「変?」
アルマが首を傾げる。
「変じゃないよ?」
「みんな仲良し!」
「……そうじゃな」
フィーネも思わず笑った。
その時。
遠くから慌てた声が聞こえてきた。
「た、助けてくれぇぇぇ!!」
「誰かぁぁぁ!!」
ルナが振り向く。
「え?」
シエルも驚く。
「悲鳴!?」
アルマはぴょんとギガルドから飛び降りた。
「行こう!」
街道の先。
そこには。
数台の荷車。
そして慌てふためく商人たちがいた。
「ど、どうしたんですか?」
アルマが駆け寄る。
商人の男性は涙目になっていた。
「あぁ、助かった!」
「聞いてくれ!」
「うちの荷車が!」
「荷車が迷子になったんだ!」
全員。
「「「……え?」」」
エリシアが聞き返す。
「荷車が?」
「迷子?」
商人は必死に頷く。
「そうなんだ!」
「朝起きたら一台だけいなくなってて!」
シエルが困惑する。
「盗まれたんじゃなくて?」
「いや!」
「足跡を見ると自分で歩いて行ったんだ!」
ルナが固まる。
「歩いた?」
フィーネが頭を抱える。
「なんじゃそれは……」
すると。
アルマの目が輝いた。
「面白そう!」
「探そう!」
エリシアが思わず突っ込む。
「そこ!?」
商人は泣きそうになりながら頭を下げた。
「頼む!」
「あの荷車には大事な商品が積まれてるんだ!」
「もちろん!」
アルマは元気よく答える。
「任せて!」
◇
しばらくして。
荷車の車輪跡を追跡する一行。
ルナが首を傾げる。
「本当に歩いてる……」
シエルも驚く。
「車輪の跡が途中から変なんだけど」
エリシアがしゃがみ込む。
「これは……」
「馬の足跡がない」
「本当に荷車だけで移動してる……」
フィーネが呆れる。
「世の中には変な魔物もおるものじゃ」
アルマは楽しそうだった。
「どんな子かな~♪」
ミルも頭の上で揺れる。
「……迷子」
「……かわいそう」
グル♪
ギガルドも鼻を鳴らした。
そして。
しばらく進んだ先。
「……あ」
アルマが立ち止まった。
草原の真ん中。
そこに。
一台の荷車。
そして。
ガジガジガジ……
荷車が草を食べていた。
全員。
「「「ええええ!?」」」
ルナが叫ぶ。
「食べてる!?」
シエルが目を丸くする。
「荷車って草食べるの!?」
エリシアが混乱する。
「いやいやいや!」
「そんなわけないでしょ!」
フィーネですら固まった。
「なんじゃこやつは……」
その荷車には。
目があった。
しかも。
きゅるん。
「……!」
アルマの目が輝く。
「かわいい!!」
荷車はアルマを見る。
きゅぴっ。
そして。
コロコロコロコロ!!
逃げた。
「あっ!」
「待って~!」
追いかけるアルマ。
逃げる荷車。
ルナたちも慌てて追いかける。
「お姉ちゃん!」
「危ないよ!」
しかし。
荷車は意外と速い。
シエルが笑いながら追いかける。
「速い!」
エリシアも呆れる。
「何なのこれ!」
ミルはギガルドの頭の上で揺れていた。
「……逃げた」
グルル!
ギガルドが疾走する。
一瞬で追いつく。
だが。
荷車は慌てて木の陰に隠れた。
ガタガタ。
震えている。
アルマはしゃがみ込んだ。
「怖くないよ?」
「どうしたの?」
すると。
荷車の目から。
ぽろぽろ。
涙が零れた。
「きゅ……」
「きゅぅ……」
ルナが驚く。
「泣いてる?」
フィーネが目を細めた。
「なるほど」
「魔道具か」
エリシアも気付く。
「自我があるの?」
アルマは優しく撫でた。
「迷子になったの?」
「きゅ……」
「お腹空いた?」
「きゅぅ」
「寂しかった?」
「きゅ!」
アルマはにっこり笑った。
「そっか!」
「じゃあ、一緒に帰ろう!」
その瞬間。
荷車の目がぱあっと輝いた。
「きゅー!」
尻尾代わりの取っ手をぶんぶん振る。
シエルが笑い転げる。
「かわいい!」
ルナも微笑む。
「よかった」
フィーネはため息をついた。
「また変なものを拾ってきおった……」
エリシアも苦笑する。
「そのうち城とか仲間にしそう」
アルマは首を傾げた。
「城?」
「お話できたら友達になれるよ?」
フィーネ。
「やめい」
ミル。
「……友達」
ギガルド。
グル♪
そして。
新たな珍騒動を抱えながら。
賑やかな旅路は、今日も続いていくのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




