第九十七話 旅路の朝と新しい仲間
──天才錬金術師は常識を知らない
翌朝。
雷鳴の森の近く。
アルマたちは野営地で朝を迎えていた。
昨日までの激しい戦いが嘘のように、空は青く晴れ渡っている。
木々の間から差し込む朝日。
小鳥のさえずり。
風に揺れる草花。
かつて災害級魔獣の暴走によって荒れていた森も、少しずつ本来の姿を取り戻し始めていた。
そんな中。
「ふぁ~……よく寝たぁ~」
アルマが元気よく起き上がる。
その隣では。
ぷに。
「……むにゅ」
ミルがスライム状態でアルマの腕にくっついていた。
「おはよう、ミルちゃん」
「……おはよう」
さらに。
モフッ。
アルマの足元には丸くなって眠る蒼い獣。
元・災害級魔獣。
蒼雷獣ギガルド。
「ふふ」
「ギガルドさんもおはよう」
グルル……
ギガルドは目を開くと、嬉しそうに尻尾を振った。
シエルが起きてくる。
「ん~……朝?」
「わっ!」
「ギガルドくん、おはよー!」
グル♪
どうやらすっかり懐いているらしい。
その光景を見たルナが微笑む。
「ふふ」
「本当に犬みたい」
すると。
「誰が犬じゃ」
フィーネが呆れた顔で起きてきた。
「仮にも神獣級の存在じゃぞ」
「そこらの犬と一緒にするでない」
アルマが首を傾げる。
「でもかわいいよ?」
「うむ」
「それは否定せぬ」
ルナとシエルは思わず吹き出した。
その頃。
少し離れた場所。
エリシアは一人で剣の手入れをしていた。
「……」
帝国。
任務。
監視。
調査。
それが自分の役目だった。
しかし。
気付けば。
こうして一緒に朝を迎えている。
不思議な感覚だった。
「おーい!」
アルマが手を振る。
「エリシアちゃん!」
「朝ごはんだよ!」
エリシアは目を瞬かせる。
「私の分も?」
「当然!」
アルマは笑う。
「仲間だもん!」
「……仲間」
エリシアは小さく呟いた。
その言葉は。
なぜか胸の奥に暖かく響いた。
◇
しばらくして。
朝食の時間。
シチュー。
焼きパン。
果物。
そして。
アルマ特製。
「魔力回復きのこスープ!」
フィーネが青ざめる。
「待て」
「その名前からして嫌な予感しかしない」
ルナも少し不安そう。
「大丈夫?」
アルマは胸を張る。
「大丈夫!」
「昨日取ったきのこ!」
シエルがスプーンを持つ。
「いただきまーす!」
ぱく。
「おいしい!」
ルナも食べる。
「ほんとだ!」
エリシアも驚く。
「……美味しい」
フィーネは恐る恐る口に入れる。
「……む」
「悪くない」
ミルも人型でスプーンを持つ。
「……おいしい」
すると。
ギガルド。
グルル♪
アルマが笑う。
「ギガルドさんも?」
グル!
「はい!」
大きなお皿を置く。
しかし。
ギガルドは食べない。
くんくん。
そして。
ぺろ。
アルマの頭を舐めた。
「きゃはは!」
「くすぐったい!」
フィーネが呆れる。
「完全に懐かれておる」
◇
食後。
一行は旅の準備を始める。
「さて」
フィーネが羽を整える。
「今日はソリティアに戻るぞ」
「その後、帝国へ向かう準備じゃ」
ルナが頷く。
「うん!」
シエルも元気いっぱい。
「楽しみ!」
エリシアは少し複雑そうだった。
帝国。
自分の故郷。
そして。
アルマを狙う者たちがいる国。
「……」
その表情に気付いたアルマ。
「エリシアちゃん?」
「どうしたの?」
「え?」
「いや……なんでもない」
アルマは笑う。
「そっか!」
「じゃあ元気出して!」
「はい!」
エリシアの頭に花冠が乗せられた。
「……え?」
「元気になる花冠!」
「昨日作った!」
ルナが笑い出す。
「いつの間に!」
シエルも吹き出す。
「かわいい!」
ミルも真似をする。
「……ミルも」
ぷにぷに。
スライムの身体から花冠を作る。
「……どうぞ」
フィーネは腹を抱えて笑った。
「くくく!」
「似合っておるぞ!」
「……」
エリシアは真っ赤になった。
「な、何を……!」
だが。
不思議と悪い気はしなかった。
むしろ。
少し嬉しかった。
「変な人たち」
小さく呟く。
すると。
アルマが笑顔で言う。
「変じゃないよ!」
「みんな仲良し!」
「……そうかもね」
エリシアは初めて自然に笑った。
◇
その頃。
遥か遠く。
ヴァルゼリオン帝国。
皇城。
玉座の間。
「黒呪竜」
「蒼雷獣ギガルド」
「どちらも失敗か」
低い声。
玉座に座る男。
ヴァルゼリオン帝国皇帝。
ガイゼル=ヴァルゼリオン。
その前に跪く仮面の男。
「申し訳ありません」
「ですが」
「やはり間違いありません」
「彼女です」
皇帝の黄金の瞳が細くなる。
「凄腕の錬金術師」
「アルマ」
「全属性」
「規格外の魔力量」
「未知の錬金術」
「そして……」
「呪いを浄化する力」
静寂。
そして。
「面白い」
皇帝は立ち上がった。
「殺すには惜しい」
「手に入れたい」
「我が帝国のためにな」
仮面の男が笑う。
「ええ」
「彼女は世界を変える存在です」
皇帝は窓の外を見る。
「来るのだろう?」
「帝国へ」
「歓迎しよう」
「天才錬金術師」
その瞳には。
野心と興味が宿っていた。
そして。
何も知らないアルマたちは。
新たな旅路へ向けて歩き始める。
帝国。
ヴァルゼリオン。
そこで待ち受ける運命を。
まだ誰も知らなかった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




