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天才錬金術師は常識を知らない〜神に選ばれた少女は、世界の価値を再定義する〜  作者: れんP
帝国編

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第九十五話 雷の終息と蒼獣の目覚め



──天才錬金術師は常識を知らない


黒雷は消えていた。


あれほど暴れていた雷鳴は、まるで最初から存在しなかったかのように静まり返る。


雷鳴の森には、風の音だけが残っていた。


ギガルドの巨体がゆっくりと揺れる。


グォ…………


かすれた呼吸。


先ほどまでの暴走は嘘のように、蒼雷獣はその場に膝をついた。


大地が軋む。


だが破壊の気配はもうない。


ルナが呆然と呟く。


「終わった……の?」


シエルも剣を下ろせずにいた。


「本当に……?」


エリシアは慎重に周囲を見回す。


「魔力の暴走反応は消えてる」


フィーネは空を見上げたまま、低く言う。


「いや……完全には終わっとらん」


その言葉に全員が緊張する。


しかしフィーネの視線の先には、戦意ではなく“警戒”があった。


空。


そこにあった“目”は、すでに閉じかけている。


黒雲は裂けたまま、ゆっくりと修復されつつあった。


だが完全に消えたわけではない。


ただ“観測をやめた”だけ。


アルマはその中心にいた。


ギガルドの胸元に触れたまま、目を閉じている。


ミルが不安そうに近寄る。


「……アルマ」


「……大丈夫?」


アルマはゆっくりと目を開いた。


「うん」


その声はいつも通りだった。


ルナが駆け寄る。


「お姉ちゃん!」


「無事!?」


アルマは笑う。


「うん、ちょっと変な場所だったけど」


その言葉にシエルが固まる。


「変な場所って……」


エリシアは小さく息を吐く。


「やっぱり普通じゃない」


フィーネはアルマをじっと見ていた。


そして低く言う。


「お主……今、何を見た」


アルマは少し考える。


「黒いところ」


「でも寂しかった」


その言葉に空気が止まる。


ミルがぽつりと言う。


「……寂しい?」


アルマは頷く。


「ずっと一人で見てた」


「ギガルドさんの中も、そこに繋がってた」


エリシアは理解できない表情をする。


「見てた……?」


フィーネは眉をひそめる。


「観測型の呪術構造か」


「あるいは神格の残滓……」


だが言葉は途中で止まった。


理由は単純だった。


そんな理屈より先に、ギガルドが動いたからだ。


グォ……


ゆっくりと頭を上げる。


その瞳。


蒼い雷光のような瞳は、もう赤黒く濁っていない。


ただ静かだった。


ルナが息を呑む。


「戻ってる……?」


シエルが一歩後退する。


「本当に……?」


エリシアも剣を握り直す。


「まだ油断はできない」


しかしアルマは一歩前へ出た。


「大丈夫」


ギガルドを見上げる。


「もう苦しくない?」


ギガルドは小さく唸る。


グルル……


だがそれは敵意ではなかった。


むしろ戸惑い。


何かを失ったような、しかし同時に解放されたような声。


その時。


ミルが前に出た。


小さな少女の姿のまま、ギガルドを見上げる。


「……もう」


「……痛くない?」


ギガルドはゆっくりと首を下げる。


まるで答えるように。


そして。


ごく小さく。


頷いた。


ルナが涙目になる。


「よかった……!」


シエルも肩の力を抜く。


「本当に……よかった……」


エリシアは驚いていた。


「魔獣が……意思を?」


フィーネは静かに言う。


「本来ならありえん」


「だがこの呪いは、それすら歪めておったのじゃろう」


アルマはギガルドの胸元に手を置く。


そこにはもう黒い結晶はない。


代わりに、淡い蒼い光の痕が残っていた。


アルマはそれを見て言う。


「もう大丈夫だよ」


ギガルドは静かに目を閉じる。


そして。


大きく息を吐いた。


その瞬間。


空から一筋の風が降りてきた。


黒雲の裂け目から、光が差す。


長い時間閉ざされていた森に、初めて陽光が戻る。


ルナが空を見上げる。


「晴れてきた……」


シエルが笑う。


「本当に終わったんだ」


エリシアは静かに剣を収めた。


「……信じられない」


フィーネはふっと息を吐く。


「お主のせいで、常識というものが何度壊されたかわからんな」


アルマは首を傾げる。


「壊してないよ?」


ミルが小さく笑う。


「……壊れてる」


ルナも笑う。


「でもいい壊れ方だよね」


その時。


ギガルドがゆっくりと立ち上がる。


大地が揺れる。


だが今度は恐怖ではない。


静かな存在感。


そして。


ギガルドはアルマを見た。


しばらく見つめたあと。


そっと。


鼻先を近づける。


アルマは笑う。


「くすぐったい」


ミルも真似して近づく。


「……ミルも」


ギガルドは小さく鼻を鳴らした。


その瞬間だった。


ギガルドの身体が淡く光る。


ルナが驚く。


「えっ!?」


シエルも構える。


「変化!?」


エリシアも緊張する。


「まだ何かあるのか!」


しかしフィーネは落ち着いていた。


「いや……これは」


「進化ではない」


「“解放”じゃ」


ギガルドの巨大な体が、ゆっくりと光に包まれていく。


その中で。


蒼い雷は消え。


ただ優しい風だけが残る。


そして。


光が収束したとき。


そこに立っていたのは。


一回り小さくなった、蒼い毛並みの獣。


雷の角は消えていた。


ただ額に、小さな蒼い痕だけが残る。


ルナが息を呑む。


「……小さくなった」


シエルが目を丸くする。


「別の生き物みたい……」


エリシアも驚いている。


「これが……本来の姿?」


フィーネは頷く。


「呪いに覆われておっただけじゃ」


アルマはしゃがんで微笑む。


「こんにちは」


新しいギガルドは、静かに目を瞬かせた。


そして。


そっと。


アルマの手に頭を預けた。


ミルが小さく言う。


「……なついた」


アルマは笑う。


「うん、友達だね」


その言葉に。


ギガルドは静かに目を閉じた。


森にはもう雷はない。


ただ。


新しい静寂と。


小さな命の息づかいだけが残っていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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