第九十話 蒼雷獣ギガルド
──天才錬金術師は常識を知らない
雷鳴の森。
黒雲が空を覆い、絶えず雷が鳴り響く危険地帯。
その森の奥で。
蒼雷獣ギガルドは姿を現した。
全長二十メートルを超える巨体。
蒼い毛並み。
全身を走る雷光。
黄金にも似た鋭い瞳。
その存在感だけで周囲の空気が震えている。
普通の冒険者なら。
姿を見た瞬間に逃げ出してもおかしくない。
実際に多くの冒険者がそうした。
だが。
「わぁぁぁ!!」
アルマだけは違った。
目を輝かせている。
完全に珍しい生き物を見つけた時の顔だった。
フィーネが頭を抱える。
「お主は本当に変わらんのう……」
ルナは少し緊張していた。
「お、大きい……」
シエルも武器を握る。
「今までで一番大きいかも」
エリシアは静かに観察していた。
そして理解する。
確かに強い。
これは災害級と呼ばれるのも納得だった。
一方。
ミルはアルマの肩の上でぷるぷる震えていた。
「……でかい」
「……すごくでかい」
アルマが笑う。
「だね!」
ミルは少し考える。
そして。
「……食べられる?」
フィーネが吹き出した。
「お主までアルマに似てきたのか」
ミルは真面目だった。
「……大きいから」
「……いっぱい食べられそう」
アルマが頷く。
「確かに!」
ギガルドが唸る。
グルルルルル……
フィーネが即座に言う。
「食料ではない」
その時だった。
ギガルドの全身を雷が走る。
バチバチバチバチ!!
周囲の木々が焦げる。
空気が焼ける。
エリシアの目が鋭くなる。
「来る!」
次の瞬間。
ドォォォォォン!!
巨大な雷撃が放たれた。
一直線。
アルマたちを飲み込む勢い。
ルナが反応する。
「光盾!」
光属性魔法。
巨大な光の壁が現れる。
しかし。
バキィッ!!
一撃でひび割れた。
ルナの顔が青ざめる。
「えっ!?」
シエルが飛び出す。
「下がって!」
剣を振るう。
だが雷は止まらない。
フィーネが炎を放つ。
黄金の炎と雷が衝突する。
轟音。
衝撃。
爆風。
森の木々が吹き飛ぶ。
それでもギガルドは止まらなかった。
むしろ。
さらに魔力が増している。
エリシアが驚く。
「強い……」
帝国軍の報告以上だった。
その時。
アルマが首を傾げた。
「ん?」
ギガルドをじっと見る。
「どうした?」
フィーネが聞く。
アルマは答える。
「なんか変」
全員がギガルドを見る。
だが見た目に異常はない。
アルマだけが違和感を感じていた。
そして。
ゆっくり目を細める。
「あ」
「なるほど」
フィーネが聞く。
「何がじゃ」
アルマは指を差した。
ギガルドの胸元。
蒼い毛並みの奥。
そこに何かが埋まっている。
小さな黒い結晶。
普通なら見えない。
だがアルマには見えていた。
「呪いだ」
その一言で空気が変わる。
フィーネの目が細くなる。
「またか」
ルナも気付く。
「黒い……」
シエルが驚く。
「呪核?」
アルマは首を振る。
「違う」
「もっと小さい」
「でも似てる」
フィーネは舌打ちした。
「帝国か……」
エリシアが反応する。
「帝国?」
フィーネは答えない。
だが嫌な予感はしていた。
最近の事件。
黒い呪い。
暴走する魔物。
そして帝国の影。
偶然とは思えない。
その時。
ギガルドが再び咆哮した。
ゴォォォォォォ!!
雷雲が渦巻く。
空一面が青白く染まる。
ルナが震える。
「すごい魔力……」
シエルも息を呑む。
「これが災害級……」
しかし。
アルマは違った。
「助けよう」
その一言だった。
フィーネが呆れる。
「やはりそうなるか」
アルマが不思議そうにする。
「だって苦しそうだよ?」
ギガルドを見る。
確かに。
怒っているだけではない。
苦しんでいる。
暴れている。
助けを求めているようにも見えた。
ミルが小さく言った。
「……かわいそう」
アルマが頷く。
「うん」
ミルはギガルドを見る。
そして。
ぷるぷる震える。
「……ミルも」
「……助けたい」
アルマが笑った。
「一緒だね」
ミルも嬉しそうだった。
フィーネは深くため息を吐く。
「まったく」
「お主らは……」
だが。
反対はしない。
ルナも頷いた。
「助けよう」
シエルも剣を構える。
「うん」
エリシアは黙って見ていた。
理解できなかった。
普通なら討伐する。
危険だから倒す。
それが当然。
だが。
この少女たちは違う。
助けることを考えている。
災害級魔獣を。
それが理解できなかった。
そして。
少しだけ羨ましかった。
その時。
ギガルドが大地を蹴る。
ドゴォォォォン!!
巨体とは思えない速度。
雷を纏いながら突進してくる。
森が吹き飛ぶ。
木々が砕ける。
圧倒的な質量。
圧倒的な速度。
だが。
アルマは一歩前へ出た。
「大丈夫」
その瞳に迷いはない。
フィーネの炎。
ルナの光。
シエルの剣。
ミルの変身能力。
エリシアの隠された力。
そして。
アルマの錬金術。
災害級魔獣を救う戦いが。
今。
本格的に始まろうとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




