第八十九話 蒼雷獣の棲む森
──天才錬金術師は常識を知らない
冒険者組合を出た後。
アルマたちはそのまま蒼雷獣ギガルドの討伐依頼へ向かうことになった。
目的地はグランゲートから北東。
雷鳴の森と呼ばれる場所。
そこは昔から落雷が多発する危険地帯として知られている。
街道を離れ、森へ続く道を進む一行。
先頭を歩くのはフィーネ。
その後ろをアルマ、ルナ、シエル、ミル。
そして新たに加わった銀髪の少女エリシアが続いていた。
アルマは楽しそうだった。
「ねぇねぇ!」
エリシアを見る。
「エリシアちゃんは冒険者なの?」
エリシアは少し考えた。
「そんなところかな」
嘘ではない。
だが本当でもない。
帝国軍所属。
しかもかなり特殊な立場にいる。
だが今は隠している。
アルマは納得した。
「そっか!」
それ以上聞かない。
フィーネは少し警戒していた。
この少女。
明らかに強い。
歩き方。
呼吸。
魔力の流れ。
全てが訓練された戦士そのものだった。
ただの冒険者ではない。
だが敵意は感じない。
だから今は何も言わなかった。
ルナは興味津々だった。
「エリシアちゃんって魔法使えるの?」
エリシアが微笑む。
「少しだけ」
フィーネが思う。
少しだけではないな。
かなり使える。
そう確信していた。
その時。
アルマが草むらへ飛び込んだ。
「わぁ!」
フィーネが叫ぶ。
「待て!」
アルマが振り返る。
「なに?」
「なにではない!」
「勝手に飛び込むな!」
アルマは両手を掲げる。
そこには青白い花があった。
花弁が微かに発光している。
「見て!」
「光ってる!」
シエルが目を丸くする。
「綺麗……」
フィーネも見る。
そして驚いた。
「雷精花じゃと?」
エリシアも少し驚く。
「そんなものが生えてるの?」
アルマが首を傾げる。
「珍しいの?」
フィーネが頷く。
「超高級素材じゃ」
「一本で金貨十枚以上する」
アルマが固まる。
「え?」
もう一度花を見る。
「金貨十枚?」
「うむ」
アルマの目が輝いた。
「いっぱいある!!」
フィーネが止める前に。
アルマは採取を開始した。
ルナが苦笑する。
「始まった」
シエルも頷く。
「いつものだね」
エリシアはその様子を見ながら思う。
やはり変だ。
超高級素材を前にした反応ではない。
金額より素材として見ている。
普通の錬金術師なら狂喜乱舞する。
だがアルマは違った。
「これ何作れるかな~♪」
完全に材料扱いだった。
フィーネが額を押さえる。
「市場価格を理解せん娘じゃ」
そんなやり取りをしながら進むこと数時間。
徐々に周囲の様子が変わってきた。
木々が増える。
空気が重くなる。
空には黒い雲。
そして。
ゴロゴロ……
遠くで雷鳴が響いた。
ルナが少し肩を震わせる。
「近い……」
フィーネが頷く。
「雷鳴の森じゃからな」
エリシアの表情も少し真剣になる。
「ここから先はギガルドの縄張りかもしれない」
アルマは空を見上げた。
「ほんとだ」
「雷いっぱい」
その時だった。
ミルがぷるぷる震える。
「……いる」
全員が足を止めた。
フィーネの目が鋭くなる。
「何か感じるのか?」
ミルが頷く。
「……大きい」
「……すごく大きい」
ルナが緊張する。
シエルも武器に手を掛けた。
エリシアは周囲を警戒する。
森が静かだった。
異常なほど静かだった。
鳥の声がない。
虫の音もない。
まるで何かを恐れているように。
フィーネが呟く。
「近いな」
その瞬間。
ズドォォォォォン!!
凄まじい雷が森の奥へ落ちた。
地面が揺れる。
木々が震える。
ルナが驚く。
「きゃっ!?」
アルマは逆だった。
目を輝かせている。
「すごい!」
フィーネが言う。
「喜ぶな」
だが。
次の瞬間。
森の奥から響いた。
グルルルルルル……
低い唸り声。
巨大な獣の声。
周囲の空気が震える。
エリシアの表情が変わる。
「来る」
シエルも剣を抜く。
ルナが魔力を練る。
フィーネの炎が揺らめく。
アルマも森の奥を見る。
そして。
木々の向こう。
二つの巨大な青い光が現れた。
目だった。
巨大な目。
次の瞬間。
森の木々が吹き飛ぶ。
ドゴォォォォォォン!!
現れた。
全長二十メートルを超える巨大な魔獣。
蒼い毛並み。
全身を走る雷。
頭部から伸びる巨大な角。
一歩踏み出す度に雷が弾ける。
災害級魔獣。
蒼雷獣ギガルド。
その圧倒的な姿を前に。
ルナは息を呑んだ。
シエルも表情を固くする。
エリシアですら驚きを隠せない。
だが。
アルマだけは。
目を輝かせていた。
「わぁぁぁぁ!!」
フィーネが嫌な予感しかしなかった。
アルマは巨大な魔獣を指差す。
そして満面の笑みで叫んだ。
「すごい!!」
「絶対すごい素材いっぱい持ってる!!」
蒼雷獣ギガルドが唸る。
フィーネが頭を抱える。
「お主は本当に怖いもの知らずじゃな……」
雷鳴が轟く。
巨大な魔獣と天才錬金術師。
その遭遇によって。
新たな騒動の幕が上がろうとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




