第八十八話 蒼雷獣討伐依頼
──天才錬金術師は常識を知らない
翌朝。
国境都市グランゲート。
金翼亭の一室。
朝日が窓から差し込み、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
平和な朝だった。
しかし。
アルマの部屋だけは違った。
「できたぁぁぁぁ!!」
元気な叫び声。
ドォォォン!!
続いて爆発音。
宿全体が揺れる。
廊下で寝ていた冒険者が飛び起きる。
「またか!?」
「朝からかよ!?」
「昨日も爆発してただろ!!」
部屋の中。
アルマは煤だらけになっていた。
頭から煙が出ている。
ルナも煤だらけだった。
「げほっ……」
フィーネは呆れた顔をしている。
「だから宿で錬金術をするなと言ったのじゃ」
アルマは笑顔だった。
「でも成功したよ!」
シエルが机を見る。
そこには小さな瓶が置かれていた。
中には黄金色の液体。
「何これ?」
アルマは胸を張る。
「万能調味料!」
フィーネが聞く。
「昨日失敗したやつか」
「うん!」
「成功したのか?」
「した!」
ルナが恐る恐るパンにつけて食べる。
ぱくり。
次の瞬間。
目を見開いた。
「お、おいしい!」
シエルも食べる。
「本当だ……」
フィーネも試す。
「……む」
数秒後。
「これは確かに旨い」
アルマが得意そうに笑う。
「でしょ!」
だが次の瞬間。
瓶がぷるぷる震え始めた。
全員が固まる。
「……ん?」
ピシッ。
瓶にヒビが入る。
アルマが首を傾げる。
「え?」
ドォォォォン!!
再び爆発した。
フィーネが叫ぶ。
「だから何故爆発するのじゃぁぁぁ!!」
金翼亭の朝は今日も騒がしかった。
そして。
朝食を終えた一行は冒険者組合へ向かっていた。
大通りは朝から賑わっている。
商人たちが荷物を運び。
冒険者たちが武器を整え。
衛兵たちが巡回している。
アルマは周囲を見回しながら歩いていた。
「大きな街だねぇ」
ルナが頷く。
「王都とはまた違う感じ」
シエルも辺りを見る。
「帝国が近いからかな」
フィーネが答える。
「ここは交易都市じゃからな」
その時だった。
組合の建物が見えてきた。
石造りの巨大な建物。
多くの冒険者が出入りしている。
中へ入る。
相変わらず活気が凄い。
酒を飲む者。
依頼を受ける者。
帰還した者。
様々だ。
そして。
アルマは昨日見た巨大な依頼書を発見した。
《特別討伐依頼》
《蒼雷獣ギガルド討伐》
《報酬金貨五百枚》
アルマの目が輝く。
「まだある!」
フィーネが嫌な予感を覚える。
「お主」
アルマが振り返る。
「なに?」
「受ける気か?」
「うん!」
即答だった。
フィーネが額を押さえる。
「やはりか」
ルナが依頼書を見る。
「そんなに強いの?」
近くにいた冒険者が振り返る。
「強いなんてもんじゃねぇ」
筋骨隆々の男だった。
「A級パーティが三つ壊滅した」
「帝国軍も被害を出した」
「今じゃ誰も近付かねぇ」
シエルが驚く。
「そんなに……」
男は頷く。
「雷を操る魔獣だ」
「しかも異常なほど知能が高い」
「罠も使う」
フィーネは腕を組む。
「ほう」
興味を持ったようだった。
アルマは依頼書をじっと見つめる。
「雷……」
ルナが聞く。
「どうしたの?」
アルマが答える。
「素材になりそう」
周囲の冒険者が頭を抱える。
発想がおかしい。
すると受付嬢が近付いてきた。
昨日とは別の女性だった。
「受注されますか?」
アルマは元気よく答える。
「うん!」
受付嬢は少し困った顔になる。
「一応説明しますが……非常に危険な依頼です」
「推定A級上位」
「場合によってはS級相当」
アルマは首を傾げる。
「そうなの?」
フィーネが答える。
「らしいな」
受付嬢は続ける。
「現在確認されている生存者は五名のみ」
「ほとんどが撤退しています」
ルナが少し不安そうになる。
「大丈夫かな……」
アルマは笑った。
「大丈夫!」
根拠はない。
だが妙な説得力があった。
受付嬢は書類を差し出す。
「では受注手続きを」
アルマは名前を書く。
ルナも書く。
シエルも書く。
フィーネは面倒そうにサインする。
ミルは。
「……書けない」
ぷるぷるしていた。
その様子に受付嬢が笑う。
手続きはすぐ終わった。
すると後ろから声がした。
「へぇ」
聞き覚えのない少女の声。
全員が振り返る。
そこにいたのは。
銀髪。
赤い瞳。
黒を基調とした服装。
年齢は十六歳ほど。
整った顔立ち。
どこか貴族のような雰囲気を纏っている。
アルマが首を傾げる。
「だれ?」
少女は微笑む。
「初めまして」
「私はエリシア」
それだけ名乗った。
フィーネの目が細くなる。
一瞬で気付いた。
この少女。
強い。
しかも。
ただの冒険者ではない。
少女は依頼書を見る。
「蒼雷獣ギガルド」
「それを受けるんだ?」
アルマは頷く。
「うん!」
エリシアは少し笑った。
「面白いね」
「みんな避けてるのに」
アルマは不思議そうだった。
「困ってるなら助けないと」
その言葉に。
エリシアは一瞬だけ目を見開く。
そして。
小さく笑った。
「なるほど」
帝国で聞いていた噂。
規格外の錬金術師。
常識外れの少女。
その噂が少しだけ理解できた気がした。
そして彼女は言う。
「ねぇ」
「その依頼」
「私も一緒に行っていい?」
アルマは即答した。
「いいよ!」
フィーネが叫ぶ。
「即決するな!!」
冒険者たちの笑い声が響く。
こうして。
新たな出会いと共に。
蒼雷獣ギガルド討伐が始まろうとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




