第八話 王都への道
──天才錬金術師は常識を知らない
「ふむ、この姿では大きすぎるな」
フィーネが小さく呟いた、その瞬間。
「ポンッ!」
軽い音とともに、その巨躯が光に包まれる。
「わぁ!?」
アルマが思わず声を上げる。
光が収まったとき、そこにいたのは──
一人の少女だった。
燃えるような赤い髪。
どこか気品を感じさせる佇まい。
「この姿なら問題ないであろう」
落ち着いた声。
「フィーネが女の子になった!」
アルマの目が輝く。
「このくらい、不死鳥たるもの造作もない」
「へぇ〜」
興味深そうにじっと見つめる。
フィーネは軽く肩をすくめた。
「ところで、アルマよ。どこへ向かっておるのだ?」
「う〜ん、そうだね」
少し考える。
「いろいろ見て回りたいかな? それにお金も持ってないし」
「だったら、王都に行くといい」
「王都?」
「あぁ。王都は多くのモノが流れる場所だ。お主の錬金物を売りに出せば、よいのではないか?」
アルマは首をかしげる。
「売れるかな?」
「売らずとも、冒険者組合なるものに倒した魔物を売る、という手もある」
「そうなんだね」
納得したように頷く。
フィーネは森の奥を振り返った。
「さぁ、森を抜けるぞ。王都を目指して」
「うん!」
二人は並んで歩き出した。
木々の間を抜け、光の差す方へ。
──しばらく歩いて。
「そういえば、魔物とかっているの?」
アルマがふと尋ねる。
「もちろんいるぞ」
フィーネは淡々と答えた。
「だが、この森には我がいたからな。気配を感じて逃げてしまったのだろう」
「不死鳥だもんね」
アルマは納得したように笑う。
「ねぇ、フィーネを傷つけたやつってどんなの?」
その問いに、フィーネはわずかに沈黙した。
「……うむ。それが、よく覚えておらんのだ」
「え?」
「記憶が曖昧でな」
アルマは少しだけ目を細める。
「そうなんだ」
「アルマも気をつけろ」
「うん!」
元気な返事。
その直後。
「あ!キラキラ!」
アルマが指差す。
周囲に、淡い光がふわりと浮かんでいた。
小さな光の粒が、舞うように漂っている。
フィーネはそれを見て、軽く頷いた。
「光の精霊と炎の精霊たちだな。我の気配に誘われたのだろう」
「へぇ〜、きれい!」
アルマは嬉しそうに見上げる。
精霊たちは、彼女の周りを楽しげに回っていた。
フィーネはその様子を見て、小さく呟く。
「精霊は普通の人には見えぬのだが……本当に、規格外だの」
「ん? なにか言った?」
「いや、なんでもない」
軽く首を振る。
「そろそろ森を抜けるぞ」
その言葉通り、視界が開けていく。
木々が途切れ、光が一気に差し込んだ。
「……あ!」
アルマが声を上げる。
「ホントだ!」
目の前に広がるのは──
どこまでも続く草原。
風が草を揺らし、波のように広がっていく。
「やっぱり草原って広いね!」
「何を当たり前なことを……」
呆れたように言いながらも、フィーネの口元は少し緩んでいた。
「あの道を通るといい。王都へ続いている」
指し示す先。
草原を貫く一本の道が、遠くまで続いている。
「うん!わかった!」
アルマは大きく頷いた。
「じゃあ、行こ」
「うむ」
二人は並び、道へと踏み出す。
その先にあるのは、王都。
そして──
まだ知らない世界の“常識”。
だがそれもきっと。
彼女は、あっさりと越えていくのだろう。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




