第九話 世界のかたち
──天才錬金術師は常識を知らない
「〜〜♪」
草原に、軽やかな鼻歌が響く。
風に揺れる草をかき分けながら、アルマはのんびりと歩いていた。
「それにしても、何もないね」
見渡す限り、広がる緑と空。
「ねぇ、けっこう遠くに見えるのが、王都?」
指差した先には、かすかに見える大きな影。
城壁のような輪郭が、地平線に浮かんでいる。
「あぁ、そうだ」
隣を歩くフィーネが頷く。
「この国の王都、“ソリティア”。だが、あそこまではまだ距離がある」
「やっぱり遠いんだ」
「道中に宿のある村があったはずだ。そこで休息しよう」
「うん!」
素直に頷く。
少し歩いて、アルマはふと口を開いた。
「そういえば、この世界の国のこと、全然知らないな〜。どんな感じなの?」
フィーネは一瞬、足を止めた。
「……まさか、それを知らんとは」
呆れたような声。
だがすぐに、小さく息を吐いた。
「まぁよい。今から教えよう」
再び歩き出しながら、語り始める。
「この国は“ソリティア共和国”という」
「共和国なんだ」
「うむ。そしてこの世界──アルケイアには、現在八つの国が存在する」
アルマが目を輝かせる。
「アルケイア……」
新しい言葉を転がすように呟く。
「それぞれの国には王、あるいはそれに準ずる支配者がいる。政治形態は違えど、力の均衡で成り立っている世界だ」
「へぇ〜、いろんな国があるんだね」
「そうだ」
フィーネはちらりとアルマを見る。
「そして、お主なら知らぬだろうが──この世界では錬金術師は極めて貴重で、神聖視されておる」
「うん」
あっさりした返事。
フィーネは軽く眉をひそめた。
「……だからだ。あまり人前でむやみに錬金術を見せぬほうがいい」
声が少しだけ低くなる。
「各国の王の耳に届けば、間違いなく自国に取り込もうとするだろう」
アルマは少し考えた。
「取り込むって、囲い込むってこと?」
「そうだ。自由などなくなる」
はっきりと断言する。
「自由に旅をしたいなら、むやみに力を見せるな」
アルマはこくりと頷いた。
「うん!わかった!」
その素直さに、フィーネは少しだけ安心したように息をつく。
「作ったものを売るときはどうすればいい?」
「そうさな……」
フィーネは少し考え、答える。
「その辺で拾ったにしては、綺麗すぎるからな。ダンジョンで見つけた、とでも言っておけ」
「ダンジョンがあるの?」
アルマの目がさらに輝く。
「うむ。多数の冒険者が挑戦しておる場所だ」
「へぇ〜!」
「そして、ダンジョンは“成長する”」
「成長?」
「内部で魔力が循環し、構造が変わり、宝も生成される。ゆえに、質の高い素材や宝が存在しても不思議ではない」
アルマは興味深そうに頷く。
「ダンジョン産のモノはどれも、美しく、純度や強度が高い。それなら、お主の作るものも不自然には思われん」
「なるほど……!」
納得したように笑う。
「ありがと、教えてくれて」
フィーネは少しだけ目を細めた。
「お主を、変な魔の手から守りたいだけだ」
ぼそりとした本音。
アルマは気にした様子もなく、前を見た。
「……あ!」
声を上げる。
遠くに、小さな建物の集まりが見えてきた。
煙が上がり、人の気配がある。
「ホントだ!村だ!」
「うむ」
フィーネも頷く。
「今日はあそこで休むとしよう」
草原の中の小さな村。
だがそこは、次の出会いと出来事が待つ場所だった。
アルマは、何も知らないまま。
ただ、楽しそうに歩いていく。
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