第十話 小さな村の違和感
──天才錬金術師は常識を知らない
草原を抜け、アルマとフィーネは村の入口へと辿り着いた。
木製の簡素な柵。
その向こうには、いくつかの家と、小さな畑。
煙突からは煙が上がっている。
「思ってたより普通だね」
アルマが素直な感想を口にする。
「村とはそういうものだ」
フィーネは周囲を見渡しながら答えた。
だが、その視線はどこか鋭い。
「……?」
アルマは首をかしげる。
「どうかした?」
「……いや」
短く否定するが、視線は外さない。
二人はそのまま村の中へ入った。
──が。
「……あれ?」
アルマが足を止める。
人が、少ない。
畑には誰もいない。
道を歩く人影も、まばらだ。
家の扉は閉じられ、窓の内側から気配だけがする。
「静かだね」
「……警戒しておるな」
フィーネが小さく呟く。
そのとき。
「だ、誰だ!」
一人の男が声を上げた。
農具を手に、こちらを睨んでいる。
その後ろから、数人の村人が顔を出した。
どこか怯えたような目。
アルマはきょとんとする。
「旅人です」
素直に答えた。
「今日はここで休もうかなって」
男はじっと見つめる。
そして──フィーネにも視線を向ける。
赤い髪の少女。
ただならぬ雰囲気。
「……怪しいな」
ぽつりと漏れる言葉。
アルマは少しだけ考えた。
「怪しくないです」
「いや、それは自分で言うことじゃ──」
「本当です」
真顔だった。
空気が少しだけズレる。
フィーネが小さくため息をついた。
「我らは敵ではない。ただの旅人だ。宿を借りたいだけだ」
落ち着いた声。
その響きに、男は少しだけたじろいだ。
「……」
沈黙。
やがて、後ろにいた年配の女性が前に出てきた。
「……通しなさい」
「婆さん?」
「こんな子供を追い返してどうするのさ」
女性はアルマを見つめる。
その目は、どこか優しかった。
「ただし、変なことはしないでおくれよ」
「はい!」
元気な返事。
こうして、二人は村へ迎え入れられた。
──案内されたのは、小さな宿だった。
木の扉。簡素な内装。
「一泊分は後でいいよ。食事も出すから」
宿の主人が言う。
「ありがとうございます」
アルマはぺこりと頭を下げた。
部屋に入る。
ベッドが二つ。
窓からは、村の様子が見えた。
「ふぅ……」
アルマはベッドに座る。
「ちょっと変な感じの村だったね」
フィーネは窓の外を見たまま答えた。
「……あぁ」
その声は、わずかに低い。
「何かを恐れている」
「何か?」
「おそらくは……魔物か、それに類するものだろう」
アルマは少し考える。
「じゃあ、倒せばいいのかな?」
あまりにも単純な発想。
フィーネは振り返った。
「軽く言うな。それが何かも分からぬうちは動くべきではない」
「そっか」
素直に引き下がる。
だが、その目は少しだけ輝いていた。
「でも、調べるのはいいよね?」
フィーネは一瞬だけ黙る。
そして、小さく息を吐いた。
「……勝手に動くな。まずは情報を集める」
「はーい」
軽い返事。
夕日が差し込み、部屋を赤く染める。
外では、誰かが急いで扉を閉める音がした。
夜が近づいている。
そしてこの村には──
何かがいる。
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次回もお楽しみに




