第七話 契約と名前
──天才錬金術師は常識を知らない
フェニックスは、静かにアルマを見つめていた。
「お主の力は凄まじい。規格外と言ってもいい」
「?」
アルマは首をかしげる。
フェニックスは小さく息を吐いた。
「わかっていないようだな。まぁいい」
その声音には、呆れよりもどこか納得が混じっていた。
「そんなお主を、一人で生かせるわけにはいかぬ。我がお主の眷属となり、見守ろう」
「……」
アルマは少しだけ考えるように黙る。
フェニックスは続けた。
「もちろん、お主に拒否権はあるぞ」
一瞬の間。
そして──
「いいよ」
あっさりとした返事だった。
フェニックスが目を見開く。
「ほんとか?」
「うん!」
アルマはにこっと笑った。
「だって、一緒に旅したほうが楽しいもん」
その言葉に、フェニックスは一瞬言葉を失う。
やがて、ゆっくりと羽を揺らした。
「……そうか」
どこか柔らかな声だった。
「では、眷属化の儀式を始める。もちろん、お主が我の主となる」
「何すればいい?」
「難しいことはない」
フェニックスは一歩、アルマへと近づく。
その体から、炎のような光がふわりと溢れ出した。
「我の力の一部を、お主に預ける。そして、お主の魔力を我に刻む」
「交換、みたいな感じ?」
「……まあ、そう思ってくれて構わぬ」
アルマはこくりと頷いた。
「じゃあ、どうやるの?」
フェニックスはゆっくりと翼を広げた。
「手を出せ」
アルマは素直に手を差し出す。
小さな手。
その上に、フェニックスの炎が静かに降りる。
熱はない。
むしろ、心地よい温もりだった。
「目を閉じよ」
言われるまま、アルマは目を閉じる。
「……」
意識が、少しだけ深く沈む。
光が、流れ込んでくる。
暖かく、強く、そしてどこか誇り高い感覚。
同時に、アルマの内側からも何かが流れ出す。
知識。理解。構造。
それらが、フェニックスへと渡っていく。
「……っ」
フェニックスが小さく息を呑む。
「これは……」
アルマの“中身”に触れたのだ。
だが儀式は止まらない。
やがて、光が収束する。
静寂。
アルマはゆっくりと目を開けた。
「……終わった?」
「……ああ」
フェニックスの声は、先ほどまでと少し違っていた。
より近く、よりはっきりと響く。
「契約は成された。これより我は、お主の眷属だ」
アルマは自分の手を見る。
そこには、淡い炎の紋様が刻まれていた。
「なんかついた」
「契約の証だ」
「へえ」
軽い。
フェニックスは小さく苦笑した。
「……それと、もう一つ」
「?」
「眷属となった以上、我は“名”を新たに得ることができる」
アルマは瞬きをする。
「名前?」
「主から与えられる名。それは我の在り方を定めるものだ」
少しだけ、真剣な声音。
「お主が望むなら、我に名を与えよ」
アルマは少しだけ考える。
炎の羽。
優しいけど、強い存在。
そして。
「……じゃあ」
顔を上げて、笑った。
「“フィーネ”ってどう?」
一瞬の静寂。
フェニックス──いや、フィーネは目を閉じる。
その名を、確かめるように。
「……フィーネ」
小さく呟く。
炎が、ふわりと揺れた。
「良い名だ」
ゆっくりと、頭を下げる。
「これより我はフィーネ。お主、アルマの眷属として、その旅に同行しよう」
アルマは嬉しそうに頷いた。
「うん!よろしくね、フィーネ!」
「こちらこそ、よろしく頼む。アルマ」
丘の上。
風が吹き抜ける。
一人と一羽。
新たな絆を結び、並び立つ。
こうして──
天才錬金術師と、不死鳥の旅が始まった。
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