第六話 神獣との邂逅
──天才錬金術師は常識を知らない
「わぁ〜!キラキラしてる!ホタルかな?」
森の奥、薄暗い木々の間に、淡い光が無数に浮かんでいた。
ふわり、ふわりと漂うそれは、まるで星が地上に降りてきたかのようだ。
アルマは目を輝かせながら、その中を進んでいく。
「綺麗……これも何かの素材かな?」
手を伸ばすと、光はふっと避けるように散った。
触れられない。ただ、導くように奥へと続いている。
「……あ!」
少し先、光が途切れた先に視界が開けた。
「むこう、開けてる!」
足取りが軽くなる。
草を踏み分け、アルマはその先へと進んだ。
──森が開け、丘になっている場所。
風が通り、空が広く見える。
そして、その中心に。
「……」
アルマは足を止めた。
そこにいたのは──
炎のように揺らめく羽根を持つ、一羽の鳥。
ただそこにいるだけで、空気が震えている。
「……お主か?」
低く、響く声。
「ここに立ち入ったものは。それに……その神聖なオーラは……」
アルマは、ぱちぱちと瞬きをした。
「うん!鳥さんはしゃべれるの? だれ?」
まっすぐな問いだった。
一瞬の沈黙。
そして、炎のような羽根の鳥は静かに羽を揺らす。
「……我に名を聞くか。まぁいい」
誇るように、告げる。
「我はフェニックス。不死鳥と呼ばれている」
「フェニックスさん?」
アルマはにこっと笑った。
「私はアルマ!錬金術師だよ〜!」
「錬金術師か……」
フェニックスの瞳が細められる。
「なるほど。そのオーラにも納得がいく。錬金術師とは神の御業。不思議な力を持つ者にしか扱えぬと聞く」
「そうなの?」
「うむ。我とて長生きだが、錬金術師は数えるほどしか見たことがない」
ゆっくりと続ける。
「しかし、我の領域に入ってきたのはお主が初めてだ」
「え!フェニックスさんの領域なの?」
アルマは慌てて頭を下げた。
「ご、ごめんなさい」
「よい」
短く返す。
「ここは人間が勝手に立入禁止にしているだけのこと。我の意志ではない」
「そうなんですね……」
ほっと息をつく。
そのとき。
「……?」
アルマは首をかしげた。
「フェニックスさん、怪我してる?」
フェニックスの翼の一部。
炎の羽の中に、不自然な“歪み”があった。
「ん? あぁ、このくらい大したことはない」
淡々と答える。
「五十年ほどで治る」
「そんなに!?」
アルマの目が見開かれる。
「呪を受けてな。治りが遅いのだ」
「……っ!」
その瞬間、アルマの視界に“表示”が現れる。
種族・神獣:フェニックス
説明:「不死鳥の名を持つ伝説の神獣の一つ」
状態:不治ノ呪(半)、切り傷
「……フェニックスさん!」
声が強くなる。
「少し待ってて!」
アルマはポケットから、小さな鍋を取り出した。
そして──投げる。
「わっ!?」
地面に触れた瞬間、鍋は一気に膨張し、大きな錬金釜へと変わった。
「ほんとに大きくなった……」
一瞬だけ感心し、すぐに意識を切り替える。
「よし……」
周囲の素材を次々と取り出す。
薬草、鉱石、キノコ。
先ほど森で集めたばかりのものだ。
「……ここをこうして、これを入れて……」
手が止まらない。
組み立てる。分解する。再構成する。
頭の中では、すでに完成形が見えている。
フェニックスが低く言う。
「もしや……我を治す気か?」
「……」
アルマは答えない。
集中している。
「やめておけ。さすがにお主でも──」
その言葉は、途中で止まった。
空気が変わったからだ。
錬金釜の中で、光が渦巻く。
素材が溶け、再編され、意味を変える。
「…………」
アルマは無言のまま、最後の工程へ進む。
そして。
しばらくして──
「できた!」
ぱっと顔を上げる。
フェニックスの瞳が見開かれる。
「……!? まさか、それは……!」
アルマが掲げたのは、透明な液体が入った小瓶。
「すんごい、おくすり!」
その瞬間、情報が浮かぶ。
秘薬:「エリクシル」
説明:「ありとあらゆる傷を治し、ありとあらゆる呪を消す」
「なんと……」
フェニックスの声が震える。
「……あの素材だけで、これほどのものを……これは……」
信じられない、といった様子だった。
アルマは、にこっと笑う。
「はい!どうぞ!」
差し出す。
フェニックスはしばらく見つめ、やがて決意したように頷いた。
「……うむ」
嘴で器用に瓶を持ち上げる。
そして、一気に飲み干した。
次の瞬間。
「……おぉ……!」
炎が強く揺れた。
傷が、閉じていく。
呪いの気配が、霧のように消えていく。
「傷が……呪いが……消えていく……」
信じられないという声。
アルマは、ほっとしたように笑った。
「良かった!」
フェニックスはしばらく沈黙し、やがて静かに頭を下げた。
「……感謝する」
「別にいいよ」
あっさりとした返事。
その軽さに、フェニックスはわずかに苦笑する。
そして。
「そうだ、お主」
ゆっくりと顔を上げた。
「我を使役してみぬか?」
「え?」
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