第五話 はじめての素材採取
──天才錬金術師は常識を知らない
「さて、身分証も手に入れたし……」
アルマは通りを歩きながら、小さく呟いた。
「やっぱり次やるのは、素材採取かな? お金持ってないし」
手元の冒険者カードを軽く揺らす。
これで最低限の行動はできる。
だが、それだけだ。
「材料がありそうな場所といえば、森とか洞窟なんだけど……」
少し視線を巡らせる。
町の外れ。門の向こう。
遠くに見える緑の広がり。
「あ、あった」
目が輝いた。
「行ってみよっと」
軽い足取りで、アルマは町を出た。
──森。
木々が生い茂り、空気が少しだけひんやりとしている。
土の匂いと、葉のざわめき。
「わぁ〜、いろいろ落ちてる」
しゃがみ込み、地面を見渡す。
石、枝、枯葉、見たことのない草。
どれも素材になりそうだが──
「でも、何がなんだかわかんないな〜」
困ったように頬を指でつつく。
しばらく眺めて、ふと思いついた。
「……こうして見たら、なにかわかったりして」
手に取った石を、じっと観察する。
その瞬間。
視界の端に、何かが“現れた”。
「わわっ!?」
思わず声が出る。
目の前に、半透明の板のようなものが浮かんでいる。
文字が並んでいた。
種類:「ただの石」
説明:「そのへんにあるただの石」
「……なにこれ、ウィンドウ?」
指で触れてみる。
すり抜ける。
だが確かに、そこにある。
「なんか出てきた……」
しばらく見つめてから、あっさり結論を出す。
「……まぁいいか」
軽い。
「これで何がなんだかわかる〜」
楽しそうに、別の物を手に取る。
するとまた、別の表示が現れた。
草、木の実、鉱石の欠片。
それぞれに“名前”と“説明”。
「便利ですねこれ」
次々と拾い上げ、確認していく。
「“薬草”…再生作用、微量の魔力……へえ」
「“鉄鉱石”…不純物多め……これは後で精製かな」
「“よくわからないキノコ”…食べられるか不明……これは保留」
ぽんぽんと、アイテムボックスへ放り込んでいく。
森の中を歩き回りながら、アルマは夢中になっていた。
知らないものを知る。
構造を理解する。
それは彼女にとって、何よりも楽しいことだった。
「……ん?」
ふと、足を止める。
空気が、少し違う。
風の流れ。匂い。音。
何かが“変わった”。
「奥の方、かな」
興味が勝った。
アルマはそのまま、森の奥へと進んでいく。
──その頃。
森が開け、丘になっている場所。
そこに、一羽の鳥がいた。
炎のように揺らめく羽根。
燃えるような赤と橙が、風に揺れている。
その存在だけで、周囲の空気が熱を帯びていた。
鳥は静かに目を開ける。
「……何かが森に入ってきた?」
低く、知性を帯びた声。
視線が森の奥へと向く。
「この森は我の領域。人間が入ってくるはずも……」
言いかけて、止まる。
「……!?」
羽がわずかに揺れた。
感じたのは、異質な気配。
魔力とは違う。
だが確かに、“力”だ。
それも──
「……神聖な力を感じる……」
空気が震える。
鳥の瞳が細められる。
「これは一体……」
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