第八十六話 国境の街
──天才錬金術師は常識を知らない
帝国へ向かう街道。
アルマたちは今日も歩いていた。
朝日が草原を照らし、心地よい風が吹いている。
フィーネは先頭を歩きながら周囲を警戒していた。
ルナは隣で地図を見ている。
シエルは背負った荷物を調整していた。
そして。
アルマは。
「わぁぁぁ!!」
走っていた。
フィーネが振り返る。
「待て」
アルマは振り返る。
「なに?」
「なにではない」
「何をしておる」
アルマは両手いっぱいに何かを抱えていた。
キラキラ光る石。
変わった形の草。
虹色の花。
謎の木の実。
見たことのない鉱石。
「素材集め!」
元気な返事だった。
フィーネは額を押さえた。
「散歩ではないのじゃぞ」
「知ってるよ?」
「知っておってこれか」
ルナが苦笑する。
「アルマお姉ちゃんだから」
シエルも頷いた。
「今さらだね」
ミルはアルマの頭の上に乗っていた。
「……楽しい」
完全に同類だった。
アルマが採取している間。
ミルはぷるぷる揺れながら光る石を見ている。
そして。
「……きれい」
と言っていた。
そんな旅が三日ほど続いた。
そして。
ついに。
「見えてきたの」
フィーネが前方を指差した。
遠く。
巨大な城壁が見える。
その周囲には街。
高い見張り塔。
多数の兵士。
活発な商人たち。
アルマが目を輝かせる。
「街!」
ルナも嬉しそうだ。
「大きい……」
シエルは目を細めた。
「国境の街かな」
フィーネが頷く。
「ああ」
「帝国と共和国を繋ぐ交易都市」
「グランゲートじゃ」
巨大な街だった。
王都ソリティアほどではない。
だが普通の街より遥かに大きい。
数万人規模の人々が暮らしている。
商人。
冒険者。
旅人。
職人。
様々な者たちが行き交っていた。
アルマは興奮していた。
「早く行こう!」
「待て」
フィーネが肩を掴む。
「まず身分証じゃ」
「あ」
アルマは思い出した。
冒険者カード。
王国の貴族証。
感謝状。
色々持っている。
フィーネが頷く。
「よし」
「問題ないな」
そして一行は街へ向かう。
門の前には兵士が立っていた。
厳重な警備だ。
帝国との国境だから当然だった。
兵士が声を掛ける。
「身分証の提示を」
アルマは元気よく差し出した。
兵士は確認する。
そして。
固まった。
「……は?」
もう一度見る。
「……は?」
さらに見る。
「え?」
ルナが不安になる。
「何かありました?」
兵士の額から汗が流れる。
「国家級錬金術師……?」
「王国貴族認定……?」
「特別保護対象……?」
シエルが苦笑する。
「反応は普通だと思う」
兵士はアルマを見る。
小柄な少女。
どう見ても普通。
だが。
身分証だけは全く普通ではない。
「本物ですか?」
フィーネが答える。
「本物じゃ」
兵士は黙る。
そして。
「どうぞお通りください」
即座だった。
アルマたちは無事に街へ入る。
街の中は賑やかだった。
商人の声。
屋台の香り。
馬車の音。
活気に満ちている。
アルマは目を輝かせた。
「すごい!」
「いっぱいある!」
その瞬間。
屋台へ走る。
フィーネが止める。
「待て」
アルマが止まる。
「なに?」
「まず宿じゃ」
「えぇ~」
「えぇ~ではない」
ルナが笑った。
シエルも笑う。
そんな時だった。
街の中心広場。
そこに大きな掲示板があった。
アルマが気付く。
「ん?」
人だかりができている。
冒険者たちが集まっていた。
何かを見ている。
アルマは近付く。
「なにこれ?」
掲示板には大量の依頼書。
そして。
中央に巨大な紙が貼られていた。
《特別討伐依頼》
《報酬金貨五百枚》
《蒼雷獣ギガルド討伐》
ルナが驚く。
「金貨五百枚!?」
シエルも目を見開く。
「高額……」
フィーネは少しだけ表情を変えた。
「ほう」
どうやらかなり有名な魔物らしい。
周囲の冒険者たちも話している。
「無理だろ」
「A級パーティが三組潰れたぞ」
「帝国軍も被害を出してる」
「災害級だ」
アルマは首を傾げる。
「強いの?」
フィーネが答える。
「そこそこじゃな」
周囲の冒険者が振り返る。
空気が止まる。
「そこそこ?」
「今そこそこって言ったか?」
「災害級だぞ?」
だが。
フィーネは平然としていた。
「我から見ればな」
誰も反論できなかった。
神獣フェニックスである。
基準がおかしい。
アルマは掲示板を見つめる。
「雷……」
「素材になりそう」
フィーネが嫌な予感を覚える。
「待て」
アルマが振り返る。
「ん?」
「その顔をやめよ」
「どんな顔?」
「絶対に依頼を受ける顔じゃ」
アルマは笑った。
「まだ何も言ってないよ?」
「お主はその顔をした時ろくなことをせん」
ルナとシエルが同時に頷く。
完全に同意だった。
その頃。
街の高台。
一つの建物から。
誰かがアルマたちを見ていた。
銀髪。
赤い瞳。
軍服姿の若い少女。
年齢は十六、七ほど。
少女は望遠鏡を下ろす。
「見つけた」
静かな声。
その瞳はアルマを捉えていた。
「共和国の天才錬金術師」
彼女は懐から一枚の写真を取り出す。
そこにはアルマの似顔絵が描かれていた。
帝国が集めた資料。
そして。
少女は小さく笑う。
「面白そう」
風が吹く。
帝国の影が。
少しずつ。
アルマたちへ近付いていた。
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