第八十五話 帝国への道
──天才錬金術師は常識を知らない
王都ソリティアを出発した翌日。
アルマたちは帝国へ続く街道を歩いていた。
見渡す限りの草原。
遠くには山脈。
さらにその向こうには、ヴァルゼリオン帝国がある。
アルマは朝から元気だった。
「わぁ~!」
「見て見て!」
ルナが振り返る。
「どうしたの?」
アルマは地面を指差した。
「きのこ!」
フィーネが呆れる。
「朝一番に言うことがそれか」
アルマはすでに採取を始めていた。
「だって珍しい形してるよ!」
シエルがしゃがみ込む。
「確かに変わった形ね」
フィーネも見てみる。
「ふむ」
「魔力茸じゃな」
アルマの目が輝いた。
「素材!」
「素材!」
「素材だ!」
フィーネが頭を押さえる。
「完全に錬金術師じゃな」
ルナが苦笑した。
「アルマお姉ちゃんらしい」
その時。
アルマの肩に乗っていたミルがぷるぷる震える。
「……ごはん?」
アルマが振り返る。
「お腹空いたの?」
「……うん」
「ぷにぷに減った」
シエルが吹き出した。
「ぷにぷに減ったって何よ」
ミルは真面目だった。
「……減った」
確かに少しだけ小さくなっている気がする。
アルマは慌てて鞄を漁った。
「待ってね!」
「何かあるかな!」
フィーネが止める。
「お主、その辺の薬草を食わせる気ではあるまいな?」
アルマが固まる。
図星だった。
「……だめ?」
「だめじゃ」
ルナが笑う。
「ミルちゃん、お弁当食べる?」
「……食べる」
その瞬間。
ミルの目が輝いた。
アルマと同じくらい。
いや。
場合によってはそれ以上に食べ物に反応する。
最近わかったことだった。
一行は近くの木陰で休憩することにした。
アルマはパンをかじりながら空を見上げる。
「平和だねぇ」
フィーネが言う。
「今だけじゃ」
「そうかな?」
「帝国へ入れば状況は変わる」
アルマは首を傾げる。
「そんなに怖いところ?」
フィーネは少し考えた。
「怖いというより面倒じゃな」
「強さが全て」
「成果が全て」
「実力が全て」
シエルが頷く。
「私も聞いたことある」
「帝国は能力主義だって」
ルナが不安そうな顔をする。
「仲良くなれるかな」
フィーネは即答した。
「無理じゃろうな」
ルナが少し落ち込む。
だがアルマは違った。
「大丈夫だよ!」
「話せばわかる!」
フィーネが遠い目をする。
「その理論で何回厄介事に突っ込んだと思っておる」
アルマは数えようとした。
「えっと……」
「数えるな」
昼過ぎ。
一行は再び歩き始めた。
帝国との国境まではまだ数日ある。
だが徐々に景色が変わってきていた。
草原は少なくなり。
岩場が増える。
木々も減る。
フィーネが周囲を見回した。
「帝国領が近いな」
「え?」
「空気が違う」
アルマは深呼吸する。
「うん?」
「よくわかんない」
「お主はそうじゃろうな」
その頃。
ヴァルゼリオン帝国。
帝都ヴァルゼリア。
巨大な城の一室。
一人の男が報告書を見ていた。
銀色の髪。
鋭い瞳。
黒い軍服。
帝国軍元帥。
帝国最強の一角。
机の上には大量の資料が並んでいる。
その全てに同じ名前が書かれていた。
アルマ。
男は静かに呟く。
「超巨大呪核を浄化」
「古代竜を解放」
「全属性適性の可能性」
「未知の錬金術」
報告書を閉じる。
「本当に人間か?」
側近が答える。
「不明です」
「ですが目撃証言は一致しています」
元帥は小さく笑った。
「面白い」
「非常に面白い」
そして立ち上がる。
窓の向こう。
遠く西の空を見る。
「ようやく来るか」
その瞳には興味があった。
敵意ではない。
だが危険な興味だった。
「錬金術師アルマ」
「君は何者だ」
一方その頃。
本人は。
街道脇でしゃがんでいた。
「わぁ!」
「光る石見つけた!」
フィーネが顔を覆う。
「今帝国の大人物に注目されておるとも知らずに」
シエルが苦笑する。
「平常運転だね」
ルナも笑った。
「うん」
ミルは石を見ている。
「……きれい」
アルマは嬉しそうに石を掲げる。
太陽の光を受けて。
石は七色に輝いていた。
「お土産にしよう!」
「誰へのじゃ」
「私!」
フィーネは深いため息を吐いた。
しかし。
その表情はどこか柔らかい。
仲間が増えた。
旅は続いている。
そして。
新たな国が近づいている。
アルマはまだ知らない。
帝国で待つ出会いも。
陰謀も。
騒動も。
その全てを。
だが一つだけ確かなことがあった。
どんな場所へ行こうとも。
どんな強敵と出会おうとも。
この天才錬金術師はきっと変わらない。
目の前の不思議なものに目を輝かせ。
困っている誰かを放っておけず。
そして。
世界の常識を軽々と飛び越えていく。
そんな旅路は。
まだ始まったばかりだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




